エナメル質形成不全
2024年6月29日
学校の歯科健診や、定期健診などで「エナメル質形成不全歯があります」と言われたら・・・不安になってしまいますね。
「乳歯がエナメル質形成不全だと、永久歯もエナメル質形成不全になるの?」
「私のせいで、子どもの歯が形成不全になってしまったのかな・・・」
そんな不安な声も聞こえてきます。
歯の形成不全は、けっして珍しいものではありません。
そして、お母さんが責められるものでもありません。
大切なのは、形成不全の原因および程度ごとに、しっかりとした対処が必要だということです。
ここでは、エナメル質形成不全について、2回に分けてお話していきます。
今回は、エナメル質形成不全とはどのようなものなのか、そして、その見分け方について、お話していきましょう。
目次
1.エナメル質形成不全とは?
2.エナメル質形成不全の原因
2-1.遺伝性のエナメル質形成不全
2-2.全身的な原因によるエナメル質形成不全(非遺伝性)
2-3.局所的な原因によるエナメル質形成不全(非遺伝性)
2-4.原因不明のもの:MIH(molar incisor hypomineralization)
3. エナメル質形成不全の見分け方
4. まとめ
1. エナメル質形成不全とは?
歯の表面は、エナメル質という、人体で最も硬い組織によって覆われています。
エナメル質は、硬い食べ物を咬むことによる歯へのダメージを防御したり、熱いもの・冷たいものといった刺激が、歯の内部に伝わるのを防いだりする働きがあります。
そんなエナメル質がうまく作られないことを「エナメル質形成不全」といいます。
エナメル質形成不全には、エナメル質の量の障害による「エナメル質減形成」と、エナメル質の質の障害による「石灰化不全」の2種類があります。
この2つを確定診断として見分けることは難しく、その対処法も同じなので「エナメル質形成不全」という1つのくくりとして考えて良いでしょう。
2. エナメル質形成不全の原因
エナメル質形成不全の原因は、遺伝性のものと、遺伝性でないもの(非遺伝性のもの)、そして、原因不明のものに分けられます。それぞれをみていきましょう。
2-1. 遺伝性のエナメル質形成不全
遺伝性のエナメル質形成不全は、血族内で遺伝していきます。乳歯・永久歯全ての歯に形成障害が認められ、その症状も様々であることから、乳歯の萌出時期から小児歯科にて長期的な計画を立てて、専門的な歯科治療を継続して行うことが必要になってきます。
2-2. 全身的な原因によるエナメル質形成不全(非遺伝性)
全身的な原因とは、歯が形成される時期に全身に何らかの問題が生じ、それによって歯の形成も影響を受けることをいいます。歯が顎骨の中で形成され始めるのは、赤ちゃんが生まれてくるずっと前の、お母さんのお腹で成長している時期になります。歯が形成される時期は左右ほぼ同じなので、全身的な原因による形成不全は、左右対称に認められることが特徴です。
全身的な原因としては、以下のようなものが挙げられます。
・ 母体の栄養障害や代謝障害、妊娠初期の感染症や、特定薬物の長期継続投与
・ 幼少期の発熱性疾患
・ 栄養障害(カルシウム、リン、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD欠乏など)
・ 内分泌異常
・ 風疹などの感染症
・ 早産による代謝障害、低酸素症、新生児重症黄疸、栄養障害など
お母さんの中には、乳歯に形成不全が見つかると自分のせいだと感じてしまう方、思い悩んでしまう方が少なくありません。
しかし、原因がどこにあるのかは、はっきりしないことのほうが多いのです。それよりも、全身的な原因である場合は、エナメル質形成不全が左右対称に認められる可能性が高いということのほうが重要です。
そのため、
・ 形成不全が明らかになった歯の反対側の歯に、異常がないかを確認すること
・ 今は何もなくても、歯が欠けたり、虫歯になりやすかったりといった形成不全の兆候が、今後出てくる可能性などを予測すること
・ 同じ時期に形成された歯を、注意深く経過観察すること
などが、大切になってくるのです。
2-3. 局所的な原因によるエナメル質形成不全(非遺伝性)
局所的原因によるエナメル質形成不全の場合は、その原因が生まれてから生じることが多いために、永久歯に認められることがほとんどです。
1~2歯に限局することが多く、左右対称には認められないのが特徴です。
原因としては、以下のようなことが挙げられます。
・ 乳歯への外傷
・ 乳歯のむし歯の進行による、歯根周囲の炎症
・ 慢性的な顎骨内での炎症
乳歯に大きなむし歯があった場合は、その下から生えてくる永久歯に何らかの影響を与えることがあります。
「乳歯だから、むし歯になっても平気」
ではなく、しっかりとしたケアを行っていくことが大切ですね。
2-4. 原因不明のもの : MIH(molar incisor hypomineralization)
エナメル質形成不全には、原因不明のものがあります。MIHと呼ばれるエナメル質形成不全は、2001年に初めて発表されました。
そして、原因は、未だに解明されていません。
MIHの特徴としては、エナメル質形成不全が第一大臼歯(前から6番目の奥歯。6歳臼歯とも呼ばれる)と、永久歯の前歯に現れ、その重症度は左右非対称です。
具体的な症状としては、変色や歯質欠損、知覚過敏などが挙げられます。このMIH、歯が生えた直後は「変色がある程度かな・・・」と、思われていたのに、暫くしてから、歯が大きく欠けたりすることがあるので、注意が必要です。MIHが疑われる場合は、定期的な前歯と第一大臼歯のチェックが必須となるのです。
3. エナメル質形成不全の見つけ方
エナメル質形成不全は、学校の歯科健診や、歯科医院での口腔内チェックの際に発見されることが多いでしょう。では、ご家庭で気を付けることとしては、どのようなポイントがあるのか、みていきましょう。
・ 歯の一部分に変色がみられ、表面がでこぼこしている
エナメル質形成不全では、生えてすぐの段階から歯の一部分に白色・黄色・褐色の部分が認められることがあります。また、歯の表面がザラザラしている、凹凸があることが多くあります。
そのため、着色汚れがつきやすく、その結果として変色して見えることもあります。むし歯の初期症状でもホワイトスポットと呼ばれる白色の変化があり、形成不全とむし歯の初期症状を区別するのは困難です。
しかし、形成不全であっても、むし歯の初期症状であっても、そこに汚れがたまることによってむし歯へと発展していくことに変わりありません。変色があるところ、表面がザラザラしているところは、日頃からしっかりと歯ブラシを当てて、磨くようにしましょう。
そして、一度歯科で診てもらうことをおすすめします。
・ 歯の形が複雑
エナメル質形成不全では、咬み合わせの面にクレーターのようなくぼみができ、その最深部は黄色味がかったように見えることがあります。これは、エナメル質がうまく作られなかったために、エナメル質の層表面に穴が開いている、もしくは欠けてしまって、内部の象牙質の色が透けて見えている状態です。歯が生えた時からある場合と、萌出後しばらくしてから表面が欠けてしまう場合があるので、むし歯との区別がつきにくいかと思います。
エナメル質内に限局した欠損ならばよいのですが、象牙質が露出してしまっている場合は、冷温刺激によって痛みを感じやすくなります。
また、くぼみが深いと、清掃しにくいことからむし歯の発生リスクが高くなります。
いったんむし歯になってしまうと、進行が非常に速いため、出来るだけ早めに歯科医院にて診てもらい、必要があればむし歯の予防処置をすることをおすすめします。
まとめ
・ エナメル質形成不全とは、歯の表面を覆っているエナメル質がうまく作られなかったことによるものである
・ 遺伝性のエナメル質形成不全は、早い時期に専門機関にて長期的な治療計画を立てる必要がある
・ 非遺伝性で全身的な原因によるエナメル質形成不全は、左右対称に認められることが多い
・ 非遺伝性で局所的な原因によるエナメル質形成不全は、乳歯の深いむし歯や外傷によって、その下の永久歯に影響が出る場合が多い
・ 原因不明のものは、永久歯の前歯、第一大臼歯に認められることが多い
・ 家庭では、歯の変色や、形の複雑さ、穴が空いているように見える歯がないか、などを観察すると良い
・ 疑わしい歯を見つけた場合は、歯科医院を受診することを勧める。
乳歯にエナメル質形成不全が認められたからといって、永久歯にもエナメル質形成不全があるとは限りません。しかし、エナメル質形成不全が1本あると、他の部位にも形成不全歯がある可能性はありますので、注意が必要ですね。
また、エナメル質形成不全は、適切な処置を行っていけば、怖い疾患ではありません。
次回は、
エナメル質形成不全の何がいけないのか
エナメル質形成不全があった場合、具体的にどうすれば良いのか
について、お話していきましょう。
お子さんの歯で気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。
生まれてきてくれてありがとう!~口唇裂について~
2024年6月25日
皆さん、こんにちは!こんばんは!
以前、口唇口蓋裂についてのお話しをしました。
そこで今回は口唇裂に焦点をあてて、お話ししていきたいと思います。
口唇口蓋裂は日本人に500人〜600人に1人の割合で生じるとされています。
これは日本人の乳幼児に生じる先天性疾患のうち、最も発生頻度が高い疾患とされています。
なので、口唇口蓋裂は決して縁も所縁もない疾患とは言えません。
この記事を読んでくださっている読者さんの中には、ご自身が口唇口蓋裂の方や、親族や身近な人に口唇口蓋裂の方がいるという人もいらっしゃると思います。
「どうして自分だけが・・・。」と思い悩んでいる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、やっぱり、命は美しいものです。ですので、どんな方でも「生まれてきてくれてありがとう」と感じます。
さて、前置きが長くなりましたが、今回はそんな身近な「口唇裂」のお話をします。
目次
①口唇裂とは?
◆いったいどんな病気?
◆原因はあるのか?
② 口唇裂の問題点
◆審美障害
◆哺乳障害
◆歯列咬合の問題
③口唇口蓋裂の治療
◆哺乳管理
◆口唇形成術
◆二次的修正術
④まとめ
口唇裂とは?
口唇裂は口唇口蓋裂の病態の一つです。口唇口蓋裂は唇やお口の天井部分に割れ目がある病気でした。口唇裂はこのうち、唇のみに割れ目がある病気です。
いったいどんな病気?
口唇裂は唇が生まれつき割れている疾患です。人間の唇は、左右と真ん中の3つのパーツによって作られています。口唇裂は、胎児の時に、これら3つのパーツのうち、左右どちらか、あるいは、左右両方のパーツがくっつくことなく生まれてくる疾患です。片方のみに裂がある場合は片側性、左右どちらも裂がある場合は両側性と呼ばれます。一般的に、片側性の邦画は両側性に比べて発生頻度が高く、片側性の場合は、左側に多いと報告されています。
また、裂が鼻の穴まで及ぶ場合を完全裂、及ばない場合を不完全裂と呼びます。
このように、口唇裂には、様々な形があり、それぞれによって治療アプローチが異なってくることがあります。
口唇口蓋裂の原因
全身疾患の中には、原因となっている遺伝子がはっきりとしている疾患もあります。その一方で、喫煙や食習慣などの様々な環境因子などが絡み合って疾患が生じる場合も少なくありません。
口唇口蓋裂は、様々な報告がありますが、現時点では「多因子疾患」と位置付けられています。つまり、遺伝子的要因や環境因子など多くの因子が複雑に絡み合って発症するとされています。つまり、原因はイマイチはっきりしないと言えます。
まずは口唇裂がどのような病気かをご理解いただけましたか?病気について知ることは、相手を理解することと同じです。お互いが理解し合っていきましょう。
口唇裂による問題
口唇裂によって生じる問題はたくさんあります。次に、口唇裂によって引き起こされる問題点を解説しましょう。
審美障害
最初は、見た目の問題です。口唇裂は、お顔の皮膚も割れています。つまり、内臓疾患と違い、相手から見てわかるということです。
それに加え、鼻の形が変形します。これは、鼻を支える組織が口唇裂によって不足するために生じます。一般的に、裂がある側の鼻が扁平になります。
哺乳障害
皆さんもものを飲み込む時は唇を閉じますよね。人間がものを飲み込むときは唇を閉じなければうまくものを飲み込むことはできません。赤ちゃんの場合は、ミルクを飲むときに、唇を閉じなければなりません。
口唇裂を持つ赤ちゃんは、裂によって、唇をうまく飲み込むことができません。このため、ミルクが鼻漏れしたり、うまく飲み込めずに咳き込んだりすることもあります。また、ミルクの摂取量が少なくなる傾向にあるため体の成長が遅くなる傾向にあります。
歯列・咬合の問題
成長に伴って、乳歯や永久歯が生えてきます。おおよそ3歳ごろに乳歯が生え揃い、12歳くらいに永久歯が生え揃います(親知らずが18歳ごろに生えてくる方もいます)。
口唇裂がある場合、歯が生える土台部分(顎堤:「がくてい」と呼びます)の骨も割れている場合も少なくありません。歯は骨の上に生えるため、骨の欠損があると、歯が生える部分が少なくなり、歯並びが悪くなります。これによって、適切な噛み合わせを獲得することも困難になります。
口唇裂患者はこの他にも、永久歯の問題や、心理的な側面など多くの問題点を抱えています。したがってより多面的な治療が必要になってきます。
口唇口蓋裂の治療
さて口唇裂を持つ患者さんの問題点に対して様々な治療が行われます。具体的にどのような治療が行われるのでしょうか。
哺乳管理
最も大切なのが哺乳管理です。赤ちゃんが健やかに成長するためには欠かせません。口唇裂を持つ子供は口蓋裂も合併している場合があります。赤ん坊が適切に哺乳できるように最適な哺乳瓶の使用や、NAM(ナム)やHotz床(ホッツしょう)といった哺乳を補助する器具を作成し、哺乳指導を行います。
口唇形成術
赤ん坊の体重が約6kgになるのを目安に全身麻酔下で口唇形成術を行います。これは唇周囲の筋肉や皮膚を再建する手術を行います。これによって、哺乳の改善や審美性の向上が図れます。
二次的修正術
口唇修正術を行った後に必要に応じて行います。5歳ごろに行うときもあります。また、成長に伴い18歳以降に修正術を再度行い、鼻の形の修正や唇にできた傷跡をきれいにする手術を行います。
ここで、紹介した以外にも、矯正治療や言語治療、母子心理カウンセリングなど、多くの問題を抱えているからこそ、より多くのアプローチで自立を目指しています。先天性疾患の場合、日本の保険制度を用いて、一定の条件下で保険治療が可能になります。なので、経済的な面からも国の後押しを受けて治療を行うことができます。
まとめ
今回は口唇裂の実際や治療についてお話しました。皆さんの友人や知人に口唇裂をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。一人で悩まず、手を差し伸べてみてください。どんな病気を持っていようが、どんな境遇で産まれようが、命は尊いものです。すべての人に「生まれてきてくれてありがとう」と言える世界があるといいですね。
口唇口蓋裂について知ろう!!
2024年6月22日
みなさん、こんにちは!こんばんは!
「口唇口蓋裂」という病気を皆さんご存知でしょうか。
最近では、芸能人のパーパーほしのディスコさんが口唇口蓋裂であることを公表しました。また、海外俳優や海外の女優、スポーツ選手の中にも、口唇口蓋裂であることを公表している方も多くいらっしゃいます。
さらには、ウソか真かわかりませんが、エジプト王のツタンカーメンも口唇口蓋裂であった説まであるほどです。
このように、口唇口蓋裂は意外と身近な疾患であると言えます。
今回は、そんな口唇口蓋裂について、理解を深めていきましょう。
目次
① 口唇口蓋裂とは?
◆どんな病気か?
◆原因
② 口唇口蓋裂の問題点
◆審美障害
◆哺乳障害
◆中耳炎
③口唇口蓋裂の治療
口唇口蓋裂とは?
口唇口蓋裂は古くから存在している疾患です。多くは、出生児の時に指摘を受けます。現在では、術前のエコー検査の進歩により、出生前診断でも胎児の口唇口蓋裂がわかるようになってきました。まずは、口唇口蓋裂がどのような疾患なのか、そこに焦点を当てていきたいと思います。
どんな病気か?
口唇口蓋裂は先天性疾患の1つです。この病気は文字通り、口唇つまり、唇と口蓋、つまりお口の中の天井部分に裂が生じている状態です。つまり、本来、塞がっている唇やお口の天井部分が割れている病気です。
口唇裂と口蓋裂は併発している場合やそれぞれ単独で生じていることもあります。口唇裂と口蓋裂を併発している場合、「口唇口蓋裂」や「唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)」と呼ばれます。
我が国日本では、これまでの報告で約500〜600人に1人の発生頻度とされ、最も発声頻度の高い、先天性疾患とされています。
実は、この病気は漫画やドラマで有名な「コウノドリ」でも紹介された疾患です。
口唇口蓋裂は大きく①口唇裂のみ、②唇顎裂、③口蓋裂のみ、④唇顎口蓋裂の4つに分類されます。
詳しい情報や治療法、生じる障害などについては、今後更新していきたいと思いますので、お楽しみに!!!
口唇口蓋裂の原因
そんな口唇口蓋裂ですが、では一体なぜ生じるのでしょうか?これまでに国内外で様々な研究が行われてきましたが、実のところ、その原因については、不明なままです。現時点での考え方としては、「多因子疾患」として位置付けられています。つまり、確たる原因はないものの遺伝子要因や環境要因が組み合わさって生じるとされています。
人間の顔面の発生は、母体の中にいる頃、左右の組織が合体(癒合)して一つの顔となります。口唇口蓋裂では、先ほど述べたように、左右の組織が様々な原因が合わさって、合体しなかったために、生まれながらに、唇や上顎の天井が割れた状態で生まれると考えられています。
さて、まずは、口唇口蓋裂が、どのような疾患であるかイメージを持っていただけたでしょうか。先天性疾患の中では、数が多く、みなさんがこれまで出会った人の中でも1人2人いてもおかしくありません。それくらい、身近な存在であると思ってください。
口唇口蓋裂による問題
口唇口蓋裂をもつ方には、様々な問題が生じます。どのような問題が生じるのでしょうか。少し解説しましょう。
審美障害
まず何よりも審美障害です、つまり、見た目の問題です。唇が割れているということはもちろんですが、唇周囲の筋肉は鼻を支えています。したがって、鼻の形が左右非対称になりやすく、また、扁平(潰れて見える)になるといった問題があります。
哺乳障害
乳幼児の場合、これが問題になりやすいです。唇が割れているため、飲み込む時に唇を閉じることができないためにミルクを飲み込みにくくなります。また。上顎の天井部分が割れているため、ミルクが、お鼻から漏れてくるようになったり、お口の中を陰圧にできないために上手に哺乳を行うことができなくなります。
ミルクは赤子にとっては重要な栄養源です。これが、できなくなってしまうと乳児の成長に悪影響を及ぼします。
海外などでは、医療が十分に発達していないために、これが原因となって亡くなってしまう方もいらっしゃいます。
中耳炎
耳の病気とどんな関連があるのかと疑問に思う方も多いと思います。これは口蓋裂を持っている方に守られる問題です。口蓋裂ではものを飲み込む時に口蓋を持ち上げる筋肉にも問題が生じています。この筋肉は耳の穴の内圧の調整や、耳の中に溜まった老廃物を外に出すための管と繋がっています。口蓋裂の場合、この働きがうまく機能せずに中耳炎を引き起こす場合があります。中耳炎が長期間放置されていると、難聴の原因になるため、早期の治療が必要です。
今回取り上げた以外にも、咬合や歯列の問題、言葉の問題、心理面での問題など、口唇口蓋裂を持っている方には様々な問題が生じます。これらを理解することが大切です。
口唇口蓋裂の治療
口唇口蓋裂に対しての治療は日本では確立されているといっていいでしょう。口唇口蓋裂患者さんに対しては、赤ちゃんの頃から、全身麻酔の手術を行わなければなりません。また、手術も1回や2回といった少ない回数ではなく、18歳〜20歳くらいになるまで多くの手術を経験することも多いです。患者さんの負担はもちろんのこと、そのご家族の心理的、社会的負担も非常に大きいです。詳しい治療法については、シリーズ第二弾としてまとめたいと思いますが、患者さんを支えるには、社会全体で患者さんをサポートする必要があります。そのためには、まずは病気を知ることから始めましょう。
歯科医に聞きたい!「この治療、あと何回で終わりますか?」
2024年6月11日
歯科医に聞きたい「この治療、あと何回で終わりますか?」
診療中に患者さんからよく尋ねられる質問の一つにこのタイトルの言葉があります。
歯医者に通院するといえば、しばらくの期間通わなければならない、通院回数が多い、というイメージを持たれている方も少なくないと思います。
実際に、歯科治療の中で一度で終了するケースというのは限られています。
そして何をゴールとして終了とするのか、また治療のゴールがどこなのかによっても治療期間が変わってきます。
今回は、こういった治療期間や回数と実際の歯科治療との関係についてお話ししていきたいと思います。
【目次】
◯虫歯治療のパターン
◆治療ステップは虫歯の大きさ、深さで決まる
◯根管治療のパターン
◆歯根、根管の形は未知!
◯歯周病治療のパターン
◯治療計画は患者さんと一緒に立てるもの
虫歯治療のパターン
詰め物が取れた、歯が欠けた、冷たいものがしみるなどの訴えから虫歯治療がスタートすることが多くあります。
みなさんの中にも、ある日突然詰め物が取れ、歯科医院を予約したことがある方もいらっしゃるでしょう。
虫歯治療の基本は、虫歯の細菌が存在する部分を削り、削ったところを埋めてお口の機能を回復させる、というのものです。
この虫歯治療は一般的にどれくらいの期間で完了するのか、またそれを左右する要因は何でしょうか。
◆治療ステップは虫歯の大きさ、深さで決まる
虫歯の範囲や大きさによって、必要な治療ステップが変わってきます。
比較的小さい虫歯であれば、削ってその場で樹脂でつめることができるので、一回の処置で終わらせることが可能です。
ただし範囲が大きく、かつ歯と歯の間にできたような虫歯の場合はその場で詰めることが出来ないこともあります。
その日は詰め物の型取りをして終了し、次回に出来上がってきた詰め物をセットすることとなり、最低でも2回の通院が必要です。
つまり、特に強い症状がなくても、虫歯の範囲が大きければ治療ステップが増えることがあるということです。
一方で範囲は小さくても深くまで進行している虫歯もあります。
特に年齢が若い方に多くみられます。
虫歯が深いということは、削っていくと神経に近づいていくということなので、虫歯を取った後に痛みが出ることがあります。
一時的な痛みはあるかもしれませんが、それが続かないかどうか、予後がどうかをある一定の期間確認することがあります。
中には数ヶ月にわたって経過をみることもあります。
このように、虫歯治療は虫歯の範囲や深さに応じて踏む治療ステップが異なり、それによって治療期間も変わってきます。
根管治療のパターン
歯の根には「根管」と呼ばれる管が通っています。
根管治療とは、細菌で汚染された根管を消毒する治療をいいます。
みなさんの中にはこの歯の根の治療の時は何回も通院した、という方もいらっしゃるかもしれません。
実際、根管治療中の方からは特にタイトルになっている「あと何回かかるのか」という質問を多く受けます。
なぜ根管治療は回数がかかるのでしょうか。
◆歯根、根管の形は未知!
歯の根の形やその中の根管の形は人それぞれ、千差万別です。
特に、根管は、歯根の先端にいくに従って無数に枝分かれしているケースもあり、構造が非常に複雑です。
この根管をできる限りしっかり目視できるような顕微鏡も使用して治療する医院も増えてきましたが、それでも確実にその構造全てを把握することは困難です。
根管治療はこういった中で処置していくため、正しい治療法で処置しても、膿がまだ出ている、出血がある、などの症状が治まらない場合は消毒、貼薬のための通院が必要となります。
そして、根管内に入れたお薬をしっかり効かせるには1週間は必要という報告もあり、来院の間隔が短すぎると欲しい治療効果が得られなくなります。
また顎骨の中、つまり体の中で起こっている炎症であるため、その治療を受けている方の体調や免疫力も治療効果に影響します。
このように、根管治療には歯根の複雑な構造が故に、治療回数が多く必要となることがあります。
歯周病治療のパターン
歯周病とは歯を支える骨が溶けていく病気です。
歯周病の原因はお口の中の細菌ですが、この細菌が歯周ポケットと言われる歯と歯茎の隙間に炎症を起こし、その炎症が続くと、歯茎だけではなく骨も溶けていきます。
この歯周病の治療の第一歩は、お口の中の細菌を減らすことですが、正しいブラッシングと同時に細菌と歯垢が石灰化した歯石の除去が必要です。
この歯石除去に必要な治療期間、回数は、付着している場所や量、硬さ、そして歯周病の重症度などによって異なります。
重度歯周病の場合は、やはり歯石の付着範囲も広く、量も多くあるため一度で全て取り除くことはできません。複数回に分けてしっかり時間をかけて取り除くことが必要となります。
さらに、歯肉の状態や骨の回復などは治療後すぐに結果が得られるものではなく、長期的な目線で経過を見ていかなければなりません。
そのため、治療期間が長くなることがあります。
治療計画は患者さんと一緒に立てるもの
ここまで、虫歯治療、根管治療、歯周病治療でのそれぞれの治療期間やなぜ複数回の通院が必要なのか、などを説明してきましたがいかがでしょうか。
上で説明したように、歯科治療では一つの治療の中に多くの処置ステップがあり、また歯科には症状などの経過をみながらの治療が比較的多く含まれます。
こういったことから、治療期間がどうしても長くなることがある、というのをみなさんに是非知っておいていただければと思います。
ただ一方で、治療を受ける患者さんにおいても、生活スタイルやお仕事の状況、例えば長期出張がある、翌日は大事な行事を控えていて痛みの出る処置は避けたい、など、それによって通院できるタイミング、可能や処置などもさまざまなことと思います。
治療する側の歯科医師や歯科衛生士は少しでも効率的に、そしてスムーズに治療が進むように治療計画を組み立てていきます。
しかしながら、その治療計画では患者さんがなかなか通院できないとなれば、やはり治療が中断してしまいます。
実際、毎週来院されていた方がお仕事の都合がつかずに徐々に通院が途絶えるというのは少なくありません。
そこはやはり一番避けたいところです。
こういったことから、歯科医師、歯科衛生士にはご自身の生活スタイルを踏まえ、治療スケジュールの中で特に留意してほしい点があれば是非お伝え下さい。
それによって歯科医師の方も処置内容を可能な限りそれに対応するようにできるからです。
治療計画は歯科医師だけではなく、患者さんと一緒に立てていくものです。
今すでに治療をスタートしているがなかなか治療が進んでいないように感じている方はもちろん、これから治療スタートする方も、歯科医師や歯科衛生士と今後の治療計画や治療のゴール、通院
スケジュールについて是非一度お話ししてみてください。
そして今回の記事を参考に、みなさんのより良い歯科治療に繋げていただければと思います。