この症状どうしたらいい?〜歯科医師が答えるQ&A〜
2024年9月9日
日々、臨床の現場にいると患者さんから多くの質問を受けます。あるいは、休日に友人と過ごしている場合でも、友人からお口の中の相談を受ける機会も多いです。非常に多くの方がお口の中の健康に関心を持っていると思うと嬉しく思います。確かに、歯科医療従事者からするといつも見ることでも、患者さんからすると、気掛かりなことであることですよね。よく、学生時代に「医師の日常は、患者の非日常」と教授や指導教官から指導されましたが、改めて、その言葉の真意を思い出させてくれます。
そこで今回は、皆さんからよく相談される内容のうち。口腔外科に関連する内容をQ&A形式でいくつかご紹介したいと思います。
目次
- ① 親知らずって抜いたほうがいいの?
- ◆こんな症状があったら抜いたほうがいい
- ◆親知らずを抜歯する時の注意点
- ② 顎がガクガクするのですけど?
- ◆「顎関節症」とは?
- ◆どのような症状があるか?
- ◆どうすればいいの?
- ③ 口内炎がずっとできているのですが?
- ◆お口の中にできる「癌」
- ◆どんな症状がある?
- ◆今すぐ、歯科医医院へ!!
- ④ まとめ
親知らずって抜いたほうがいいの?
口腔外科に関連する相談の中で、最も多いのがこの「親知らずを抜いたほうがいいか」という相談です。非常に多くの相談を受けます。
そもそも親知らずは、12歳ごろに生えてくる大人の歯である7番目の歯のさらに後ろから生えてくる歯です。大体18歳ごろに歯の頭が見えてきます。しかし、近年、若い女性を中心に、顎の骨が小さくなってきているため、親知らずが横から生えてくるために様々な問題が生じることがあります。
こんな症状があったら抜いたほうがいい
親知らずによって様々な症状が生じることがあります。一つの基準として次のような症状があった時には、親知らずの抜歯をすることをお勧めします。
- ⒈ 歯茎が腫れて痛みが出たことがある
- ⒉ 手前の歯が虫歯になってきている
- ⒊ 横から生えてきている
- ⒋ 手前の歯の周りの歯茎のポケットが深くなっている
- ⒌ 物が詰まりやすく、お掃除が難しい
- ⒍ 矯正治療をする予定
親知らずを抜歯する時の注意点
親知らずを抜歯する時には気を付けるべき偶発症があります。決して頻度は高いものではありませんが、患者さんが不快に思うことです。いざ抜歯した後にこのような症状があればすぐに相談しましょう。
- ・舌や唇の周りがずっとしびれている/左右差がある
- ・湧くような出血がある
- ・熱が40℃近くあり、飲み込むときの痛みがある
- ・1週間ほど経っても治らず、激痛がある
これらの症状があった場合、早期に治療を行った方が良い場合がほとんどです。ただちに抜歯を行った歯科医院または、夜間救急の歯科医院に連絡を入れるようにしましょう。
さて、皆さん共通の悩みの種の親知らず。自分でそうしたらいいかと考える一つの基準を紹介しました。ぜひ参考にしてみてください。
顎がガクガクするのですけど?
2つ目がこの相談です。若い女性を中心に、中高生でもこのような症状に悩んでいる方もいるのではないでしょうか。これらの症状が続いている場合、「顎関節症」が最も疑われます。
「顎関節症」とは?
顎関節症とは、様々な事が原因となり、顎関節やその周囲の疼痛や、動きにくくなる病気です。顎関節症そのものが原因となって死んでしまうというような悪い病気ではありません。しかし、しゃべる、食べるなどの日常生活で顎関節が動くたびに痛みが生じる事があり、患者さんの生活に悪影響を及ぼす病気です。
どのような症状があるか?
顎関節症で見られる、あるいは患者さんが訴える症状は代表的に次のようなものがあります。
- ・口を開けにくい
- ・痛くて大きく開けられない
- ・口を開けたり閉めたりするときに「カクカク」や「パキパキ」といった音が鳴る
どうすればいいの?
顎関節症には様々な治療法が存在しますが、その治療ゴールは「セルフケアを中心とし、症状を軽くし、顎運動機能を回復させること」です。最も大切なことは、「痛みを可能な限り取り除く」ということです。そのために、マッサージやマウスピースなどの治療を行っていく事があります。
自身が顎関節症かな?と思ったら、ぜひ一度歯医者さんに相談してみてはいかがでしょうか?あなたにあった治療を提案してくれると思います。
口内炎がずっとできているのですが?
ほとんどの口内炎は約2週間もあれば、無くなっていきます。しかし、それ以上、口内炎のようなものがずっと続いている場合、「口腔癌」かもしれません。
意外と知られていませんが、お口の中にもがんはできます。他の内臓と同じように、放置していると最終的に最悪の状態になることもありえます。
お口の中にできる「癌」
お口の中にできるがんは舌、歯茎、頬っぺたなどあらゆるところに生じる事があります。中でも、舌と歯茎はお口の中にできるがんのうち、約8割を占めます。最終的には、死ぬこともある非常に恐ろしい病気です。なので、早期発見・早期治療が非常に重要になってきます。
どんな症状がある?
お口の中の癌でよくみられる症状には次のようなものがあります。
- ・口内炎が長期間治りません
- ・顎が痺れたり、舌が動かしにくくなった
- ・お口の中に出来物ができて、そこから血が出やすい
今すぐ、歯科医医院へ!!
最初にも述べたように、がん治療は早期発見、早期治療が肝心です。先ほどのような症状がある場合はすぐに歯医者さんに相談しましょう。
また、お口の中は皆さん自身で確認する事ができます。一日1回、寝る前にご自身のお口の中をしっかりみて、出来物ができていないか?、口内炎がずっと残っていないか?といったことを確認するようにしましょう。なにか困ったことがあれば、遠慮なく、相談するようにしましょう。
まとめ
今回は、口腔外科医Q&Aと題して、よくある質問について答えていきました。中には、恐ろしい病気も取り上げましたが、皆さんのお口の中の健康に役立ててもらえれば嬉しいです。何よりも、日々の管理と、定期的な歯科受診を行うことが重要です。ぜひかかりつけ歯科医院をこれを機に持つようにしましょう。
親知らずがむし歯になったら抜くべき? むし歯になりやすい理由とは?
2024年8月29日
「親知らずはいつか抜かなきゃいけない?」
そう悩んでいる方も、多いようですね。
では、その親知らずがむし歯になったら??
絶対に抜かなければいけないのでしょうか。
そもそも、どうして虫歯になった親知らずは抜かなければいけないのでしょうか。
ここでは、親知らずとむし歯の関係について、親知らずがむし歯になった場合、どのような時に抜く必要があるのかをお話していきます。
また、親知らずがむし歯になりやすい理由についてもお話していきますね。
目次
1. 親知らずとは
親知らずとは、歯並びの最も後方に生える永久歯のことで、第三大臼歯、智歯(ちし)とも呼ばれます。
生える時期も永久歯の中で最も遅く、「気が付いたら生えていた」「親が知らないうちに生えていた」ということが多いので、「親知らず」と呼ばれるようになったそうです。
現代人の顎の大きさは小さくなってきていることから、歯の生えるスペースも少なくなっている傾向にあります。
それにより、現代人の親知らずは退化傾向にあります。
そのため、親知らずは手前の歯と比較して、形が小さいことも多く、先天的に存在しない方もいるのです。
もちろん、他の歯と同じように、真っすぐ生えてきて上下の歯で咬み合うケースもあります。
しかし、生えるスペースが足りないために斜めになって生えてくることや、歯の一部分だけ歯肉から顔を出して、その他の部分は歯肉の中に埋まっている状態のままになるケースも多く認められます。
2. 親知らずがむし歯になりやすい理由
「親知らずは虫歯になりやすい」という傾向にあります。
それはなぜなのでしょうか。
また、親知らずには、むし歯以外にも気をつけなければいけないことがあります。
「親知らずは抜いたほうが良い」という理由にも繋がりますので、あわせてみていきましょう。
◆2-1. 磨きにくさ
親知らずは、お口の中の最も奥に位置しているので、歯ブラシの毛先を届かせるのが難しい場所ということができます。
また、親知らずが完全に生えずに一部分だけ歯肉から顔をのぞかせている場合は、余計に歯ブラシの毛先が当たりにくくなります。
そのため、汚れがたまりやすく、細菌が増殖しやすいのです。
◆2-2. 萌出の方向・角度
歯列の中で、親知らずは最後に生えてきます。
そのため、親知らずが生えてこようとした時には、歯が生えるスペースが埋まってしまっていることも少なくありません。
萌出スペースが足りないことで、親知らずが斜めに生えてくることも多くなります。
すると、隣り合う歯との間に汚れの溜まりやすいスペースが生じやすくなります。
このようなスペースは、清掃がしにくい部位となり、むし歯になりやすくなるのです。
◆2-3. 咬み合わせに関与しない
親知らずが斜めに生えている場合や、反対側の親知らずが生えてこない場合など、咬み合う相手がいないことも親知らずにはよくあることです。
歯は食べ物を咬み砕く際に、歯の表面に付着している汚れが、食べ物と当たることによって除去されていく効果があります。
これを「自浄作用」といいます。
咬み合わせに関与しない歯には自浄作用が生じないので、一度付着した汚れがその場に停滞しやすくなります。
◆2-4. 親知らず特有の病気「智歯周囲炎」
親知らずには、むし歯以外にも気をつけなければいけない病気があります。
それは「智歯周囲炎」(ちししゅういえん)です。
親知らずの周囲には、汚れがたまりやすく、細菌が増殖しやすいという特徴があります。
智歯周囲炎とは、親知らず周囲で増殖した細菌の出す刺激や毒素などによって、歯周組織に炎症が生じることをいいます。
簡単に言うと、親知らずの周りが腫れて、痛みを生じてしまうのです。
放置すると腫れがひどくなり、顔が腫れることや、激しい痛み、発熱、開口障害などにもつながります。
智歯周囲炎の場合、投薬によって腫れや痛みといった症状を和らげることや、歯肉を切開して溜まった膿を出して腫れを引かせるなどの処置を行いますが、それは一時的な処置に過ぎません。
根本的な治療としては、炎症の原因となる親知らずの抜歯を行うしかありません。
一時的に炎症を抑えることはできても、今後いつ腫れるかわからないといったドキドキ感が、歯が存在する間は続くようになります。
3. どんな時に、親知らずを抜くべきか
では、親知らずは全て抜かなければいけないのでしょうか。
ここでは、親知らずにむし歯が出来たとき、どんな時に抜かなければいかないのか。
どんな時は親知らずを抜かなくてもよいのかについて、みていきましょう。
◆3-1. 親知らずを抜いたほうが良いケース
親知らずがむし歯になった場合、どのような時は抜歯を選択したほうが良いのかをみていきましょう。
- 自分で清掃することが難しい
親知らずは、お口の奥の方に生えてきます。
そのため、なかなかご自身で清掃を行うのが難しい場合もあるでしょう。
それが原因でむし歯が出来ているとしたら、例えむし歯の治療を行ったとしても、再びむし歯になるリスクが非常に高くなります。
そのような場合は、抜歯を検討するのが良いでしょう。
- 隣の歯に悪影響を及ぼす
親知らずが横向きに生えてきていて、隣の歯をグイグイ圧迫している場合や、親知らずがあることによって、隣の歯の親知らずと接している部分に汚れがたまりやすく、細菌の温床となりやすい場合。
そのような時は、隣の歯を守るために、むし歯の有無に関わらず親知らずの抜歯を選択することがあります。
- 咬み合わせに参加していない
親知らずが斜めに生えていて、咬み合わない。
咬み合う歯がないために、咬み合わせに参加していない。
そのような場合は、頑張ってむし歯の治療を行う必要がないと考えられます。
また、先述したように、咬み合わせに参加していない歯は汚れが付着しやすいため、管理も大変になります。
ブリッジの土台となる・他部位への移植の可能性があるなど、その歯の利用価値があるという場合を除いて、無理に残す必要があるのか考える必要があります。
- 何度か腫れたことがある
先ほどお話した智歯周囲炎によって何度か腫れた経験がある歯がむし歯になった場合は、抜歯していくことをおすすめします。
むし歯がなかった場合でも、頻繁に智歯周囲炎を繰り返す場合は、抜歯をおすすめします。
それには理由があります。
智歯周囲炎で腫れている時や、痛みがある時は、歯を抜くことはできません。
投薬などによって腫れを一旦鎮めてから、改めて抜歯をすることになるのです。
智歯周囲炎はいつ起こるかわかりません。
そのため、大切な仕事や試験の前などに智歯周囲炎が生じたとしても、すぐ抜歯を行うことができないのです。
女性の場合は、妊娠中や授乳中などで出来るだけ薬を服用したくない時期なども出てくるかもしれません。
そのようなことを考えると、頻繁に智歯周囲炎を繰り返す場合は、症状が落ち着いている時期に、ご自身のタイミングの良い時を見計らって抜歯をすることをおすすめします。
◆3-2. 親知らずを抜かなくても良いケース
では、親知らずを抜かずにむし歯治療を行ったほうが良い場合をみていきましょう。
- まっすぐ生えていて、上下の歯で咬み合っている
- 周囲の歯や咬み合わせなどに、悪影響を及ぼしていない
- 移植、ブリッジの土台の歯として利用する可能性がある
もちろん、治療を行うにあたって、治療器具が歯まで届き、精密な治療を行うことが出来るということが大前提となります。
その上で、親知らずの抜歯に悩んでいるようであれば、一旦むし歯の治療を行い、その上で経過をみていくという方法もあるかと思います。
4.まとめ
- 親知らずがむし歯になりやすいのは、親知らずが歯並びの最奥に位置すること、傾いて生えてくることや、歯肉に埋まった状態になることが多いため、清掃がしにくいことによる。
- 親知らずは、歯の周囲に汚れが残りやすいことから、親知らず周囲歯肉に炎症が起こる「智歯周囲炎」になることがある。
- 自分で清掃が難しい、隣の歯に悪影響を与える、咬み合わない、何度か腫れたことがある(智歯周囲炎)場合は、親知らずの抜歯を検討することを勧める。
- まっすぐ生えていて、上下の歯で咬み合っている、移植やブリッジの土台として利用する可能性がある場合は、むし歯の治療を行い、親知らずを抜歯せず残していくことを検討する。
むし歯の有無に関わらず、親知らずを抜く、抜かないで迷っている時は、歯科医院で相談してみましょう。
お口の中の状態は、人それぞれ異なります。
笠貫歯科クリニックでは、親知らずを残した場合、抜歯した場合のメリット・デメリットについて、しっかりと説明した上で、お口の中の将来について、一緒に相談させていただきます。
メタボリックシンドロームと歯周病
2024年8月26日
メタボと歯周病。
全く別の病気だと思われがちですが、実は、メタボと歯周病の間には、密接な相関関係があることをご存じですか?
今日は、メタボと歯周病について、両者の関係とその対処法についてお話ししていきましょう。
目次
まずは、メタボとは何なのか。肥満との違いについてみていきましょう。
身体の中には、2種類の「脂肪」が存在します。
「内臓脂肪」と「皮下脂肪」です。
肥満とは、脂肪の種類にかかわらず、身体に脂肪が過剰に蓄積した状態のことです。
肥満の基準としてはBMI指数で判断し、BMIが25以上のことを肥満とみなします。
(BMI : Body Mass Index 世界共通の肥満度の指標。体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m))
それに対して、身体の中に内臓脂肪の蓄積が認められるのがメタボリックシンドロームです。
日本におけるメタボリックシンドロームの基準は、腹囲が男性で85cm以上、女性で90㎝以上あるということに加えて、
高血圧・高血糖・脂質代謝異常のうち、2つ以上が基準値を超える状態になります。
内臓脂肪の蓄積は、動脈硬化や高血圧、糖尿病、心筋梗塞などの心臓病、脳卒中、高脂血症などの生活習慣病を引き起こしやすくします。
メタボリックシンドロームは内臓脂肪症候群とも言われ、生活習慣病の予防・重症化及び合併症を防止するために、2008年度からメタボリックシンドロームに着目した特定健康診査が行われるようになりました。
そして、2018年度から健診の際の質問票に歯科の要素が組み込まれました。
これは、メタボリックシンドロームに歯科領域が密接に関わっているということが、判明したからなのです。
2. メタボリックシンドロームと歯周病の関係
メタボリックシンドロームの人は、歯周病にかかりやすく、また悪化しやすいという統計結果が出ています。
また、歯周病はメタボリックシンドロームを悪化させる原因になることも知られています。
では、メタボリックシンドロームと歯周病がどのように関わっているのかをみていきましょう。
◆2-1. メタボリックシンドローム ➡ 歯周病
メタボリックシンドロームでは、内臓脂肪の蓄積量が多く認められます。
内臓脂肪が蓄積すると、炎症性物質(サイトカイン)が放出されます。
すると、血糖値を調節するインスリンの働きが悪くなり、血糖値が下がりにくくなります。(高インスリン血症)
その影響を受けて、全身の血管の状態が悪くなり、栄養や酸素を全身に運ぶ能力が低下し、免疫力も低下することとなります。
その結果、感染症にかかりやすくなったり、全身の臓器に悪影響が及んだりするのです。
歯周病という観点から考えてみると、歯肉および歯を支える歯槽骨の血流が悪くなることで、歯周病菌に対する免疫力が低下します。
その結果、歯周病になりやすく、また、悪化しやすくなるのです。
◆2-2. 歯周病 ➡ メタボリックシンドローム
では、今度は歯周病側からみてみましょう。
歯周病では、歯周病性細菌が歯肉ポケット及び歯肉に入り込み、増殖します。
それによって、歯肉に炎症が生じます。
炎症によって歯肉内の血管が拡張し、歯周病原性細菌が血流に乗って心臓や全身に回ります。
近年の研究により、この歯周病原性細菌は、炎症性物質(サイトカイン)を放出することがわかってきました。
つまり、全身の血流に乗った歯周病原性細菌が炎症性物質(サイトカイン)を放出し、血糖値を調節するインスリンの効きを悪くするのです。
その結果、血糖値が下がりにくくなる高インスリン血症を引き起こします。
それによって、メタボリックシンドロームを発症・悪化させてしまうこととなるのです。
3. 歯科の観点からみた メタボで改善すべきこと・歯周病で改善すべきこと
ここでは、歯科としての観点からみた、メタボリックシンドローム、および歯周病の改善方法をみていきます。
◆3-1. 歯周病で改善すべきこと
歯周病からメタボリックシンドロームを引き起こさないように、どのようなことに気をつけていけば良いのかをみていきましょう。
1. 毎日の歯磨きをていねいに
歯周病予防の基本は、毎日の歯磨きですね。
自分に合った歯ブラシを使って、丁寧に磨く習慣をつけましょう。
歯ブラシだけではなく、歯間ブラシやデンタルフロスなどの補助清掃具を用いることで、ぐっと効果が上がります。
2. 定期検診の受診
お口の中の状態や、生活習慣、持病の有無によっても定期検診の頻度は異なります。
決められた期間での定期検診を受けるようにしましょう。
検診の際には、むし歯の有無だけではなく、歯肉の状態や歯石の有無、ブラッシングの仕方などもチェックしていきます。
歯磨きの仕方は、どうしても癖がつきやすいものです。
歯科医院で磨き残しやブラッシング圧などのチェックを受けることで、ご自宅での毎日のブラッシングをより効果的に行うことが出来るようになります。
歯を支えている歯槽骨や顎骨、顎関節の状態なども、レントゲン写真などによって定期的に確認していくと良いでしょう。
次に、メタボリックシンドロームを引き起こさないように、お口の中で出来ることをみていきましょう。
1. よく咬んで食べる
メタボリックシンドロームは、生活習慣病です。
そのため、改善のためには、生活習慣を見直すことが大切になってきます。
歯科の領域で、メタボ対策として出来ることは、「よく咬んで食べること」です。
よく咬んで食べることには、様々なメリットが存在します。
- よく咬んで食べることにより早食べの習慣を改善することができる
- よく咬むことにより、満腹中枢が刺激され、食べすぎを防ぐことができる
- 咬むことにより唾液の分泌が促進され、唾液による口腔内の殺菌・消毒効果や自浄作用を期待することができる
- 食べ物が細かく粉砕されることで、消化酵素と混ざりやすくなる。それにより、消化を助け、胃腸の負担を軽減することができる
2. 早めに歯の治療を行う
よく咬むためには、歯があることが必要です。
そのためにも、今ある歯を長く使っていくことが出来るようにしていく必要があります。
むし歯は放置しても治りません。
早めに治療を行うことで、失う歯質の量を最小限にすることが出来ます。
また、残せない歯や、既に失われた歯をそのまま放置してしまうことにより、周囲の歯まで悪影響を受けることが多くあります。
歯を失った部分は、ブリッジ、義歯、インプラントなどの補綴処置を行うことで、再び咬むことが出来るようになります。
3. 歯科検診を定期的に行う
歯を失う原因の第一位は、歯周病です。
そして、歯周病は、本人の自覚がないままに静かに進行していきやすい病気でもあります。
気付いた時には歯周病がかなり進行していた・・・ということにならないよう、定期的な検診を欠かさないようにしましょう。
また、歯を失う原因の第二位はむし歯です。
検診では、むし歯のチェックも行っていきますので、ご安心ください。
4. まとめ
- メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪の蓄積に加えて、高血圧・高血糖・脂質代謝異常が認められることにより、心臓病や糖尿病・脳卒中などの生活習慣病になるリスクが高い状態のこと
- メタボリックシンドロームでは血流の流れが悪くなり、歯周病になりやすく、悪化しやすい
- 歯周病では、メタボリックシンドロームでの血流の流れを悪くする物質(サイトカイン)と同じサイトカインの放出が認められるため、メタボリックシンドロームの発症・悪化を引き起こしやすくなる。
- つまり、メタボリックシンドロームと歯周病は、お互いにその発症と悪化に関与している。
- 歯周病で改善すべきことは、「毎日の歯磨き」「定期的な歯科検診の受診」である
- メタボリックシンドロームで改善すべき口腔内のこととしては、「よく咬んで食べる」「早めに歯科治療を行う」「定期的な歯科検診の受診」である
メタボリックシンドロームと歯周病。
この2つは、お互い体に悪影響を与えてしまう間柄なのです。
しかし、別の視点からみれば、メタボリックシンドロームを改善することは、歯周病の進行抑制となり、
また、歯周病を改善することは、メタボリックシンドロームの発症および進行を抑えることが出来るともいえるのです。
将来の生活習慣病を予防するためにも、今できることを実行していきましょう。
笠貫歯科クリニックでは、お口の中から皆様の全身の健康作りのお手伝いをしていきます。
お口の中で気になることがあれば、何でもご相談ください。
人よりも歯の本数が多い?過剰歯
2024年8月20日
4月・5月は各学校(小学校、中学校、高校)で学校歯科健診が実施されます。
法律で学校歯科健診は6月30日までに行なうことになっています。学校歯科健診は、子どもが検診を通して、自分の歯や口腔の状態を知り、健康の保持増進の意識を高めるために行います。
歯科健診では様々な指摘がされますが、その中には過剰歯の指摘があります。
目次
◯過剰歯とは
◆過剰歯の種類
◯過剰歯の気づき方
◯過剰歯が引き起こすトラブル
◯過剰歯の治療法
◯まとめ
過剰歯とは
過剰歯とは、通常よりたくさんの歯が萌出する事です。上顎・下顎のどこの場所にも発生する可能性があるとされています。過剰歯の原因はまだはっきりとは分かっていません。遺伝的な原因や、お口の何らかの環境などが関係しているとされています。過剰歯の発生の割合は、日本人では全人口の約2%ぐらいの方にみられるとされています。アメリカやヨーロッパでも、全人口の約2%とされています。男女比について、日本では男性が女性よりも多いとされ、約2:1の割合で過剰歯がみられます。アメリカやヨーロッパでは、男女比に大きな差はないとされています。
◆過剰歯の種類
過剰歯は、順正と逆性に分けられます。
順正は、お口の中で、ふつうの歯と同じ方向に生えてくる過剰歯のことです。大臼歯の頬側に発生する臼傍歯や、上顎の正中に発生する正中過剰歯があります。
逆性とは、ふつうの歯と逆向きに生えてくる過剰歯のことです。親知らずの後ろに発生する第四大臼歯があります。
過剰歯の気づき方
過剰歯は、無症状であることが多いです。そのため、歯科医院でレントゲン撮影した時にみつかる事が多いです。「上顎の前歯に隙間があるのが心配、正しく永久歯が生えて来てない。」と思い歯科受診したところ、発見される事もあります。
自分で触ってみて気づくことがあります。過剰歯は、ふつうの歯と違う場所や向きに萌出しています。お口の中を歯ブラシで触ってみて、変な位置に歯がないかを確認してみましょう。
過剰歯が引き起こすトラブル
過剰歯は、歯並びの不正、歯肉炎や嚢胞(のうほう;液体等が入った袋状の構造の事です)などを引き起こします。
1. 過剰歯が永久歯の成長や生える場所にあるため、永久歯が萌出しにくい事があります。上顎の前歯の間に生える過剰歯(正中過剰歯)は、よく見かけます。
2. 上の前歯に隙間があいてしまうことがあります。正中過剰歯が、上顎の前歯を左右に押し広げる事で、隙間(すきっ歯ともいいます)を作ってしまいます。この隙間は、原因の過剰歯を抜歯しても自然に閉じない事もあります。
3. 永久歯の歯根を溶かしてしまう事もあります。過剰歯が骨中で成長すると、近くの永久歯の根元を溶かしてしまう事もあります。ダメージを受けると、根元の象牙質や神経が露出します。このため、この永久歯は、虫歯などの感染症にかかり易くなります。
4. 嚢胞(のうほう)ができる事があります。過剰歯が埋まっている骨の周りに嚢胞ができる事があります。この嚢胞が大きくなると、永久歯の根元を溶かしたり、細菌感染したりする危険性は、かなり高くなります。
過剰歯の治療法
過剰歯の治療法は、 主に抜歯です。症状に応じて歯科矯正も行います。過剰歯の向きや位置によって、抜歯の方法やタイミングが異なります。
順性過剰歯の抜歯をする場合は、生え揃うのを待ってから抜歯します。
逆性過剰歯の場合、歯茎の中に過剰歯が埋まっている事が多く、そのまま萌出しない事もあります。顎の骨の奥にあるため、レントゲンで確認します。顎の骨の奥深くに埋まり、他の歯に悪影響を与えない時は、抜歯せずに経過観察します。近くの歯に影響が出てしまう時は、抜歯します。正中過剰歯の抜歯は、歯科医院で多くみられます。抜歯する時は、早期に行うことが望ましいです。
純正過剰歯の抜歯をする場合は、ふつうの抜歯で、数分で終わることが多いです。
逆性過剰歯の場合、歯肉を剥離し、骨を削って過剰歯を露出してから、過剰歯を抜歯します。抜歯が終わったら、歯肉を元の位置で縫合して終わりです。縫合に使った糸は1、2週で抜糸します。抜歯前の準備、抜歯、縫合まで、数十分かかる事もあります。
子どもの恐怖心が強い場合、過剰歯が難易度の高い箇所にある場合、基礎疾患がある場合は、全身麻酔下で行う事もあります。全身の痛みや感覚を麻痺させる方法ですが、麻酔科医が常に監視しているため、安心して手術を受けられます。全身麻酔下で過剰歯の抜歯を行っても、翌日からは普段通りの生活に戻れる事が、ほとんどです。
まとめ
過剰歯という言葉を知っている方は、 歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士、歯科助手などの歯科関係者や、以前、過剰歯の治療を受けた事がある方が多いと思います 。
過剰歯の状態や治療法には個人差があります。自分の子供の過剰歯について正確に知りたい場合は、 歯科医院で診てもらうことが一番です 。
睡眠時無呼吸症候群治療における歯科医院の役割とは?
2024年8月18日
【目次】
・睡眠時無呼吸症候群とは
・睡眠時無呼吸症候群の治療
・睡眠時無呼吸症候群において歯科医院で行う治療
・まとめ
睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群はテレビ番組などメディアを通じて広く知れ渡ってきていると思います。寝ている間によくいびきをかく方や無意識に呼吸が止まっている状態を見聞きしたことがあるかもしれません。しかし、症状や治療方法、何科を受診すべきかよく分からないことがあると思います。今回は睡眠時無呼吸症候群について確認します。
定義と症状
睡眠時無呼吸症候群は(Sleep Apnea Syndrome)SASと呼ばれることもあります。睡眠時無呼吸症候群の医学的定義では、10秒以上呼吸が止まる『無呼吸』や呼吸が弱くなる『低呼吸』が1時間あたり5回以上繰り返される状態をいいます。症状として代表的なものに、睡眠時のいびきや息苦しさ、夜間に何度も目が覚める、昼間の眠気、起床時の倦怠感などが挙げられます。夜間寝ている間には通常体は休まりますが、無呼吸の場合には体が低酸素状態になってしまいます。体は低酸素状態を改善させるために心拍数を上げようとするため、脳も身体も覚醒したような状態になり休まることがありません。結果として、上記のような症状が出てしまいます。
病態
睡眠時無呼吸症候群では鼻からの空気の通り道が狭くなり呼吸が止まってしまう場合や呼吸を司る脳の働きが落ちてしまうために起こる場合、それらが混合している場合が考えられます。寝てる間は舌が喉の奥に落ち込みやすくなり、人によっては完全に気道を塞いでしまいます。特に肥満の方が多いとされていますが、それ以外にも舌が元々大きい方、鼻呼吸ができない方、顎が小さい方や喉の奥の扁桃腺の形態が大きい場合などに起こりやすいです。
危険性
たかが無呼吸と思われるかもしれませんが、睡眠中の低酸素は高血圧や脳卒中、糖尿病や高脂血症などの合併を引き起こす可能性があります。その他に仕事などで機械や車などを使用する方は日中の眠気は大きな事故につながる可能性もあります。検査や治療を早期に行うことは重要です。
診断
診断には患者さんに対する問診票、特に日中の眠気を評価するためにエプワース眠気尺度というものが用いられます。いくつかの項目が点数かされ合計点数でどの程度眠気が強いのかを判断します。その他には簡易検査や精密検査があります。脳波や血中の酸素量、心電図、目や顎の筋肉の動きや胸部・腹部の動きなどを確認するものです。このような精密検査では入院が必要なこともあります。
睡眠時無呼吸症候群の治療
治療法にはいくつかありますが、代表的なものには
①CPAP療法
②マウスピースなどのオーラルアプライアンス
③減量療法
④耳鼻科的外科療法
⑤顎顔面外科療法
などが挙げられます。それぞれを確認しましょう。
治療①:CPAP療法
CPAP療法(シーパップ療法)は聞いたことがある治療かもしれません。経鼻的気道持続陽圧療法を指します。具体的には鼻にマスクをつけ特殊な機械で圧力をかけて空気を送り込む治療法です。圧力により空気の流れが滞らず、呼吸が止まらないようにします。
治療②:オーラルアプライアンス
歯科医院における治療ではこちらがメインになることが多いかもしれません。睡眠時無呼吸症候群の場合に使用するものは、通常のマウスピースと異なり上下が一体型になっているものが多いと思われます。下顎を前に出した状態で固定してマウスピースを装着することにより、舌が奥に落ち込まずに気道を確保する方法です。歯にあてがって装着するため、残っている歯が少ない場合や元々鼻呼吸ができない方には不向きとなります。
治療③:減量療法
睡眠時無呼吸症候群の中でも、肥満による影響が考えられる場合には減量による治療も大切です。食事療法や運動療法により改善を図ることがあります。
治療④:耳鼻科的外科療法
睡眠時無呼吸症候群の原因となり得る扁桃の肥大や鼻中隔の彎曲などは耳鼻科領域での外科治療を行う場合があります。その他、鼻性の蓄膿症がある時なども治療を行うこともあるでしょう。
治療⑤:顎顔面外科療法
下顎が小さい場合など顎の骨格に原因がある場合には、顎に対しての治療を行う場合があります。全身麻酔下での治療となります。顎自体を前方に出すことにより気道を広げて改善する方法です。
睡眠時無呼吸症候群において歯科医院で行う治療
治療方法をいくつか確認してきましたが、一般的な歯科医院での治療は主に口腔内のオーラルアプライアンス治療が一般的です。治療については医科における診断が必要になります。保険内でオーラルアプライアンスを作成する場合には、まずは呼吸器内科や耳鼻咽喉科などの医科受診が必要となります。その後、装置の作成依頼があった場合に作成が可能となります。歯科では一般的に作成可能ですが、装置の作成が可能かどうか受診前に電話などで確認してから受診した方が良いと思われます。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群の症状や病態などの基本的な事項、治療方法や歯科医院での治療の介入について確認してきました。一般的な歯科医院でも治療は可能ですが、保険内での治療の場合には医科での診断が必要になります。歯科医院では一般的にはマウスピースによる治療が多いのが現状です。歯科医院によっては装置の種類などが異なるため、治療を希望する方は受診前に電話等で治療の可否や使用する装置の種類などを確認しておくのがよいかもしれません。
生まれてきてくれてありがとう!~口唇裂について~
2024年7月31日
皆さん、こんにちは!こんばんは!
以前、口唇口蓋裂についてのお話しをしました。
そこで今回は口唇裂に焦点をあてて、お話ししていきたいと思います。
口唇口蓋裂は日本人に500人〜600人に1人の割合で生じるとされています。これは日本人の乳幼児に生じる先天性疾患のうち、最も発生頻度が高い疾患とされています。なので、口唇口蓋裂は決して縁も所縁もない疾患とは言えません。
この記事を読んでくださっている読者さんの中には、ご自身が口唇口蓋裂の方や、親族や身近な人に口唇口蓋裂の方がいるという人もいらっしゃると思います。
「どうして自分だけが・・・。」と思い悩んでいる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、やっぱり、命は美しいものです。ですので、どんな方でも「生まれてきてくれてありがとう」と感じます。
さて、前置きが長くなりましたが、今回はそんな身近な「口唇裂」のお話をします。
目次
①口唇裂とは?
◆いったいどんな病気?
◆原因はあるのか?
②口唇裂の問題
◆審美障害
◆哺乳障害
◆歯列咬合の問題
③口唇口蓋裂の治療
◆哺乳管理
◆口唇形成術
◆二次的修正術
④まとめ
①口唇裂とは?
口唇裂は口唇口蓋裂の病態の一つです。口唇口蓋裂は唇やお口の天井部分に割れ目がある病気でした。口唇裂はこのうち、唇のみに割れ目がある病気です。
◆いったいどんな病気?
口唇裂は唇が生まれつき割れている疾患です。人間の唇は、左右と真ん中の3つのパーツによって作られています。口唇裂は、胎児の時に、これら3つのパーツのうち、左右どちらか、あるいは、左右両方のパーツがくっつくことなく生まれてくる疾患です。片方のみに裂がある場合は片側性、左右どちらも裂がある場合は両側性と呼ばれます。一般的に、片側性の邦画は両側性に比べて発生頻度が高く、片側性の場合は、左側に多いと報告されています。
また、裂が鼻の穴まで及ぶ場合を完全裂、及ばない場合を不完全裂と呼びます。
このように、口唇裂には、様々な形があり、それぞれによって治療アプローチが異なってくることがあります。
◆口唇口蓋裂の原因
全身疾患の中には、原因となっている遺伝子がはっきりとしている疾患もあります。その一方で、喫煙や食習慣などの様々な環境因子などが絡み合って疾患が生じる場合も少なくありません。
口唇口蓋裂は、様々な報告がありますが、現時点では「多因子疾患」と位置付けられています。つまり、遺伝子的要因や環境因子など多くの因子が複雑に絡み合って発症するとされています。つまり、原因はイマイチはっきりしないと言えます。
まずは口唇裂がどのような病気かをご理解いただけましたか?病気について知ることは、相手を理解することと同じです。お互いが理解し合っていきましょう。
②口唇裂による問題
口唇裂によって生じる問題はたくさんあります。次に、口唇裂によって引き起こされる問題点を解説しましょう。
◆審美障害
最初は、見た目の問題です。口唇裂は、お顔の皮膚も割れています。つまり、内臓疾患と違い、相手から見てわかるということです。
それに加え、鼻の形が変形します。これは、鼻を支える組織が口唇裂によって不足するために生じます。一般的に、裂がある側の鼻が扁平になります。
◆哺乳障害
皆さんもものを飲み込む時は唇を閉じますよね。人間がものを飲み込むときは唇を閉じなければうまくものを飲み込むことはできません。赤ちゃんの場合は、ミルクを飲むときに、唇を閉じなければなりません。
口唇裂を持つ赤ちゃんは、裂によって、唇をうまく飲み込むことができません。このため、ミルクが鼻漏れしたり、うまく飲み込めずに咳き込んだりすることもあります。また、ミルクの摂取量が少なくなる傾向にあるため体の成長が遅くなる傾向にあります。
◆歯列・咬合の問題
成長に伴って、乳歯や永久歯が生えてきます。おおよそ3歳ごろに乳歯が生え揃い、12歳くらいに永久歯が生え揃います(親知らずが18歳ごろに生えてくる方もいます)。
口唇裂がある場合、歯が生える土台部分(顎堤:「がくてい」と呼びます)の骨も割れている場合も少なくありません。歯は骨の上に生えるため、骨の欠損があると、歯が生える部分が少なくなり、歯並びが悪くなります。これによって、適切な噛み合わせを獲得することも困難になります。
口唇裂患者はこの他にも、永久歯の問題や、心理的な側面など多くの問題点を抱えています。したがってより多面的な治療が必要になってきます。
③口唇口蓋裂の治療
さて口唇裂を持つ患者さんの問題点に対して様々な治療が行われます。具体的にどのような治療が行われるのでしょうか。
◆哺乳管理
最も大切なのが哺乳管理です。赤ちゃんが健やかに成長するためには欠かせません。口唇裂を持つ子供は口蓋裂も合併している場合があります。赤ん坊が適切に哺乳できるように最適な哺乳瓶の使用や、NAM(ナム)やHotz床(ホッツしょう)といった哺乳を補助する器具を作成し、哺乳指導を行います。
◆口唇形成術
赤ん坊の体重が約6kgになるのを目安に全身麻酔下で口唇形成術を行います。これは唇周囲の筋肉や皮膚を再建する手術を行います。これによって、哺乳の改善や審美性の向上が図れます。
◆二次的修正術
口唇修正術を行った後に必要に応じて行います。5歳ごろに行うときもあります。また、成長に伴い18歳以降に修正術を再度行い、鼻の形の修正や唇にできた傷跡をきれいにする手術を行います。
ここで、紹介した以外にも、矯正治療や言語治療、母子心理カウンセリングなど、多くの問題を抱えているからこそ、より多くのアプローチで自立を目指しています。先天性疾患の場合、日本の保険制度を用いて、一定の条件下で保険治療が可能になります。なので、経済的な面からも国の後押しを受けて治療を行うことができます。
④まとめ
今回は口唇裂の実際や治療についてお話しました。皆さんの友人や知人に口唇裂をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。一人で悩まず、手を差し伸べてみてください。どんな病気を持っていようが、どんな境遇で産まれようが、命は尊いものです。すべての人に「生まれてきてくれてありがとう」と言える世界があるといいですね。
親知らずを抜くときの合併症と対策
2024年7月30日
歯を抜くということは、一定のリスクがつきものです。
今回はその中でも合併症が多く起こりやすい、親知らずを抜歯したときについて説明していきます。
目次
◯起こりやすい合併症
◆腫れ、痛み
◆出血
◆ドライソケット
◆神経麻痺
◯合併症が起きた時は?
◆ドライソケット
◆神経麻痺
◯まとめ
起こりやすい合併症
親知らずを抜いた時に起こりやすい合併症は次に挙げる4つがあります。
◆腫れ、痛み
親知らずに限ったことではありませんが、歯を抜いたときは腫れや痛みが生じることがあります。腫れも痛みも歯を抜いてから2〜3日がピークとなり、1週間ほどで徐々に落ち着いてくることが多いです。痛みが出たら鎮痛薬を飲むと、生活に支障が出ずに過ごせるでしょう。
◆出血
歯を抜いた後は血が止まりにくいことがあります。血液をサラサラにする薬を飲んでいる患者さんなどは特に血が止まりにくくなる傾向にあります。
血がなかなか止まらないときは、ガーゼを強く噛んで圧迫することで血が止まりやすくなります。ガーゼがないときは清潔なタオルなどを使いましょう。ティッシュは水分を含みやすいのであまりよくありません。また強いうがいはしないようにしましょう。
◆ドライソケット
歯を抜いた場所は血が固まり、かさぶたのようになって、それが治って歯ぐきとなっていきます。うがいをしすぎたり、舌や指で抜いた場所を触ったりしていると、かさぶたが剥がれてしまいます。そうなると歯ぐきができず、まわりの骨がむき出しになってしまい、激痛を伴うようになります。
この状態を「ドライソケット」といいます。
ドライソケットが治るまで1ヶ月以上かかることもあります。歯を抜いてから1週間以上痛みが続く場合は、このドライソケットを疑います。
◆神経麻痺
下あごには下歯槽神経や舌神経という唇や頬の感覚を司る神経が走っています。下の親知らずがあごの深いところに埋まっている場合はそれらの神経にとても近かったり、神経と接触している場合があります。
歯を抜くときに神経に触れて傷めてしまうと、麻酔が切れた後でも唇や頬にしびれる感じや違和感を生じることがあります。
神経が完全に切れてしまった場合などは、手で触れても全く何も感じないこともあります。
歯科医師が最も注意するのがこの神経麻痺です。
神経麻痺のリスクを少しでも減らすために、レントゲン写真をとって歯の位置や神経の走行を確認します。
合併症が起きたときは?
◆ドライソケット
ドライソケットになったかもしれないと思ったときは、まず抜いた歯医者さんに相談しましょう。
ドライソケットだった場合は痛みを抑えるための鎮痛剤と感染を防ぐための抗生物質を飲むことで悪化を防ぎます。
ドライソケットが重症化して骨に感染してしまった場合は抜歯した場所の汚れを取り除き、もう一度麻酔をして出血させてかさぶたをつくる処置をすることがあります。
▽詳細はこちらをご覧ください▽
【歯科医師が徹底解説】抜歯後の痛みがひどい時の対応!それはドライソケットかも?
◆神経麻痺
歯を抜いた当日は麻酔が残っている可能性がありますが、歯を抜いた次の日まで痺れる感じが取れない場合は、神経麻痺が起きている可能性があります。そのときは歯を抜いた歯医者さんに相談しましょう。
神経麻痺の特徴は、唇やあごを触った感覚が鈍い、またはない、親知らずより手前の歯に違和感がある、歯がしみる感じがある、などです。
神経麻痺にはいくつか種類があります。
CTを撮影することで原因が判明することが多いです。
▶︎神経麻痺の特徴
神経麻痺の特徴は、唇やあごを触った感覚が鈍い、またはない、親知らずより手前の歯に違和感がある、歯がしみる感じがある、などです。
CTを撮影することで原因が判明することが多いです。
▶︎神経麻痺の種類
神経麻痺にはいくつか種類があります。
大まかに分けて、下記の3つが考えられます。
①神経が圧迫されている場合
歯を抜いたときの出血が抜いた穴に溜まって、神経を圧迫する場合があります
②神経が部分的に傷ついた場合
神経が歯に近かったり、一部接していたりすると、歯を抜くときの操作で神経の一部が傷ついてしまうことがあります。
③神経が断裂した場合
歯があごの奥深くにあって、歯を割って抜かなければならないときなどに、歯を割ったり削ったりする機械で神経を切ってしまうことがまれにあります。
▶︎神経麻痺時の対応
基本的にはどのパターンでもビタミンB12を摂ることをおすすめします。
ただ対応は同じですが、①〜③によって治る日数も異なってきます。
おおよそ目安としては、
①数日で治ることが多いです
②半年〜1年ほどかかることが多いです。
③神経が断裂してしまった場合は完全に治癒することは見込めないといわれています。
(※あくまで目安であり、個人差もございます。またビタミンB12を摂ったからと言って、必ず治るというわけではございません)
まとめ
上にあげたリスクがありますが、親知らずの状態によっては抜かないこともリスクとなります。そのため、利益とリスクを考えて、歯医者さんと相談して抜くかどうか決めるようにしましょう。
ドライソケットにならないようにするためには、抜いたあと強いうがいをしない、舌で抜いたところを触らない、などで防ぐことができます。神経麻痺に関しても、抜く前にレントゲンをとって位置を把握することでリスクを最小限に抑えることができます。
また、若ければ若いほど合併症が起きたときの治癒もはやく、骨の質もいいので難易度が下がります。そのため、親知らずを抜くのは早めに相談したほうがよいです。
親知らずを抜いたほうがいいのか気になったときは、ぜひ当院へご相談ください。
世界で広く普及している虫歯予防法『水道水のフロリデーション』
2024年7月18日
フッ素は、むし歯の予防に非常に効果的ですね。
では、フッ素を用いたむし歯予防法には、どのようなものがあるでしょう。
日本では局所的応用が主流ですが、全世界をみてみると、水道水フロリデーションという方法が広く普及しています。
今回は、水道水フロリデーションについて、お話していきましょう。
目次
1.水道水フロリデーションとは
2.日本の水道水は?
3.海外における水道水フロリデーション事情
4.まとめ
1.水道水フロリデーションとは
むし歯予防のフッ化物(フッ素)利用法の種類をみていきましょう。
まず、局所応用といわれる方法です。これは、お口の中に直接フッ化物を作用させていくものです。
フッ化物歯面塗布・フッ化物洗口・フッ化物配合歯磨剤 などが挙げられます。
日本では、この局所応用が広く行われています。
次に、全身応用といわれる方法です。水道水やサプリメント、食品などからフッ化物を摂取し、体内に吸収されたのちに、口腔周囲に届き効果を発揮するものです。
水道水フロリデーション・フッ化物サプリメント(錠剤・液剤など)・食品へのフッ化物添加(食塩・ミルクなど)が挙げられます。
全身応用は現在、日本では行われていません。
この中の、フッ化物全身応用にあたる「水道水フロリデーション」について、みていきます。
水道水フロリデーションとは、水道水の中に含まれるフッ化物を適切な濃度に調整し、その水道水を摂取することによってむし歯の発生を抑制する方法です。
水道水フロリデーションは、アメリカの一部地域で初めて行われました。今では、水道水中のフッ化物濃度を0ppmから1.2ppmに上げるにつれて、むし歯の発生がどんどん減少していくということが実証されています。
しかし、水道水中のフッ化物濃度を高くすればよい、というわけではありません。フッ化物の過剰摂取は、歯牙フッ素症を引き起こすという側面も持ち合わせているのです。
歯牙フッ素症とは、歯の形成障害の一種で、歯の表面のエナメル質に境界不明瞭な白斑、白濁や、不透明な縞模様などが認められます。
これは、エナメル質が作られる時期に高濃度のフッ素を体内に取り込むことで生じるもので、既に萌出している歯面へのフッ素塗布や、歯磨き粉などの局所応用では発生しません。
水道水フロリデーションでは、歯牙フッ素症が発生しない濃度で、なおかつむし歯の発生を抑制する濃度に水道水のフッ化物濃度を調整します。
WHO(世界保健機構)では、水質基準としてのフッ化物濃度を1.5ppm以下、むし歯予防のための推奨水道水フッ化物濃度を0.7〜1.0ppmと定めています。
一般的には、水道水フロリデーションの濃度は1.0ppmが最も効果的であると言われています。
2.日本の水道水は?
日本でも、過去に水道水フロリデーションが試験的に行われています。京都市山科地区で1952年から1965年までの13年間、そして、沖縄県、三重県でも行われたことがあります。
なかでも京都市山科地区では、水道水のフッ化物濃度を0.6ppmに調整して実施され、実際にむし歯予防効果が報告されたそうです。
しかし、現在では日本において水道水フロリデーションは行われていません。
日本の水道法における飲料水中フッ化物濃度は0.8ppm以下と定められていますが、実際はこれよりもはるかに低い値であると推察されます。
つまり、現在、日本の水道水にはむし歯予防効果はない、ということができます。
3.海外における水道水フロリデーション事情
「海外では、水道水で手軽にむし歯予防が簡単で出来ていいなあ。」
そう思われたかたも、多いのではないでしょうか。
実際、水道水フロリデーションを行っている国は多く、アメリカのほかにもイギリス、オーストラリア、シンガポールなど、人口にすると3億人以上の人が水道水フロリデーションによってむし歯を予防しているのです。また、それぞれの国や民族、生活様式やむし歯有病状況の違いがあるにもかかわらず、大きなむし歯予防効果が報告されているそうです。
しかし、国や地域による背景の違いについても理解しなければいけません。
水道水フロリデーションは、天然の水の中に存在するフッ化物の量を適正な濃度に調整して、飲料水として摂取する方法です。天然水の水質は地域によってさまざまなので、天然水の中に含まれるフッ化物濃度が高すぎるために、フッ化物を除去するという意味での調整が必要な地域もあります。
経済的な理由などで、歯科を受診する割合が低い国でのむし歯予防対策として、全ての人が平等に予防措置を受けることが出来るように、という理由で水道水フロリデーションを導入している国もあるでしょう。
フッ化物を人工的に取り入れることは、薬物療法にあたると考え、拒否感を示す方もいます。
水道水フロリデーションでは、個人の選択権がありませんね。フッ化物の応用を望む人と望まない人、それぞれの意見を尊重するために、水道水フロリデーションを行わないという決断をした国もあるでしょう。
また、水道水フロリデーションにおけるフッ化物の濃度は、その土地の気温によって左右されます。
暖かい地域では水道水を飲用する量が多いために、フッ化物の濃度を低く、寒い地域では高く設定するのです。
日本のように、四季による温度変化や、北と南の気候の差が大きいという環境は、水道水フロリデーションを行う上でのフッ化物濃度の基準作りを難しくさせているのかもしれません。
このようなことから、日本ではフッ化物塗布や歯磨剤へのフッ化物添加など、フッ素の局所応用が虫歯予防の主軸となっていることが推察されます。
4.まとめ
・ フッ化物の利用法は、大きく分けて2種類に分類される。
全身応用:水道水フロリデーション、フッ化物サプリメント、食品へのフッ化物添加
局所応用:フッ化物歯面塗布、フッ化物洗口、フッ化物配合歯磨剤
・ 水道水フロリデーションとは、水道水の中に含まれるフッ化物の濃度を適正な濃度になるよう、フッ化物の添加もしくは除去を行うことによって調整する。
それによって、むし歯の発生、および歯のフッ素症を抑制していく。
・ 日本では、過去に水道水フロリデーションが試験的に行われていたが、現在では行われていない。
・ 海外では、水道水フロリデーションは広く行われているが、その考え方や、実施する上での背景は国によって異なる。
日本でも、将来的には水道水フロリデーションが行われる時代が来るかもしれません。
それまでは、日常生活においてはフッ化物配合の歯磨剤やうがい薬の使用などの局所応用でむし歯予防を行っていくのが良いでしょう。
もちろん、定期健診も大切です。
フッ素を用いた理想的なむし歯予防として、お家での毎日のケアに加えて、歯科医院にてお口の中を定期的にチェックして、クリーニングを行った上でフッ素塗布を行うことをおすすめします。
お口の中で気になることなどありましたら、お気軽にご相談ください。
エナメル質形成不全②
2024年7月14日
前回は、エナメル質形成不全の原因と、家庭での見分け方についてお話していきました。
今回は、エナメル質形成不全とは一体何がいけないのか、そして、どのように対処していったら良いのかについて、お話していきましょう。
目次
1. エナメル質形成不全の問題点
1-1. 見た目
1-2. 知覚過敏を生じやすい
1-3. むし歯になりやすい
1-4. しっかりと咬み合わなくなる
1-5. 歯並びの乱れにつながる
2.エナメル質形成不全にどう対処していくか
2-1. 家庭で出来る対処法
2-2. 歯科医院でできる対処法
3.まとめ
1.エナメル質形成不全の問題点
エナメル質形成不全であることによって、どのような問題があるのかをみていきましょう。
1-1.見た目
エナメル質は、エナメル小柱と呼ばれる細長い柱状の構造が規則正しく並んで出来ています。
その色は半透明で、艶があります。
場所によっては内部の象牙質の色がうっすらと透けて見えるので、黄色味を帯びて見えることもあります。
エナメル質形成不全の場合は、エナメル質の形成が不規則になったり、厚みが薄くなったりします。
そのため、他の部位と比較して白色、黄色、褐色といった色の変化が認められます。
また、表面がザラザラしていることが多く、そのような部位には、外からの着色も付きやすくもなります。
1-2.知覚過敏を生じやすい
歯の表面をガードしているエナメル質が一部分でも欠損すると、そこから冷温刺激が歯の内部に伝わりやすくなるために、知覚過敏が生じます。
1-3.むし歯になりやすい
歯の大部分を占める象牙質は、その表面をエナメル質によって守られています。
エナメル質は非常に硬く、象牙質と比べてむし歯の進行もゆるやかです。
しかし、そのエナメル質がうまく作られていない、つまりエナメル質形成不全の部位は、むし歯の進行が非常に早くなります。
それに加えて、形成不全の部位は凹凸や深い溝などがあり、清掃が難しいことが多いので、汚れが残りやすくなります。
つまり、エナメル質形成歯は清掃が困難なためにむし歯のリスクが高く(虫歯になりやすく)、また、いったんむし歯になると進行が非常に速いということができるのです。
1-4.しっかりと咬み合わなくなる
エナメル質形成不全は、その形成不全部位が咬合面(奥歯の咬む面)に広く認められると、反対側の歯とうまく咬み合わなくなります。
多数歯にエナメル質形成不全が認められると、大きな咬み合わせのズレにつながります。
1〜2歯だけの場合でも、上下の歯がバランスよく咬むことができないために、全体的な咬み合わせが悪くなる可能性があります。
1-5.歯並びの乱れにつながる
エナメル質形成不全によっては、歯自体が小さく生えてくることもあります。
また、大きく歯が欠けてしまうことなどにより、歯と歯の間に大きなすき間ができることがあります。
そのすき間に、隣の歯が移動してきたり、倒れ込んできたりすることで、全体的な歯並びの乱れにつながってしまうことがあります。
特に、幼い頃の歯並びの乱れは、発音や顎の成長の妨げになってしまうこともありますので、注意が必要です。
2.エナメル質形成不全にどう対処していくか
エナメル質形成不全は、萌出直後からわかるものと、萌出後しばらくしてから歯が欠けたりして発見されるものがあります。
そんなエナメル質形成不全にどう対処していったら良いのかを、みていきましょう。
2-1.家庭でできる対処法
・ お口の中を観察する習慣をつける
毎日でなくとも構いません。
仕上げ磨きをする前に、時々でもお子さんのお口の中を観察してみてください。
「歯に穴が開いていないかな」
「色がついていないかな」
「舌や頬の内側、歯茎はツルツルでピンク色かな」
何となくで構いません。
日頃からお口の中を見慣れておくことで、異常に気が付きやすくなります。
そして、何かいつもと違うところや、「あれっ?」と思うことがあれば、検診も兼ねて歯科医院で相談してみてください。
また、乳歯に大きなむし歯があった場合は、その下から生えてくる永久歯は注意して観察しましょう。
全身的な理由でのエナメル質形成不全の可能性を指摘された場合は、エナメル質形成不全が疑われる部分の歯を、特に注意してみていくと良いでしょう。
・ 毎日のていねいなブラッシング
何といっても大切なのは、毎日行う家庭での歯磨きです。
エナメル質形成不全の部分は、特に気を付けて磨くように心掛けましょう。
全ての歯が永久歯に生え変わるまでは、大人の仕上げ磨きが必要です。
ピンポイントでも良いので、エナメル質形成不全の部位や、お子さんが磨きにくい部位は、大人が仕上げ磨きを行うようにしましょう。
家庭用フッ素の使用も効果的です。
2-2.歯科医院でできる対処法
・ むし歯になりやすい部位の予防処置
エナメル質形成不全によって汚れがたまりやすく、家庭での清掃が難しい部位は、むし歯の予防処置を行っていきます。
状態によって異なりますが、シーラントというお薬で複雑な溝を埋めたり、定期的に高濃度のフッ素を塗布したりしていきます。
・欠けている部位、欠損が大きい部位の修復
欠けてしまった部位や、もともと形成されなかった部位を、白いプラスチックのお薬を用いて修復していきます。
大きく欠けている場合は、咬み合わせを回復させるために、歯全体に被せ物をする場合もあります。
乳歯であっても、被せ物をすることは可能です。
永久歯の場合は、乳歯と違って一生使う歯になります。
そのため、永久歯に被せ物をする際には、歯が完全に萌出して、周囲の歯肉の形が安定するのを待ってから、治療を行うのがベストです。
暫間処置という、最終的な被せ物の治療までに歯及び咬み合わせを保つ処置を行いつつ、様子をみる場合もあります。
・定期的な検診
エナメル質形成不全では、経過観察が非常に大切です。
今あるエナメル質形成不全歯が、新たに欠けたりしていないか。
他の部位に異常はみられないか
今の時期に出来る処置はないか
などを、定期的に診ていきます。
その際に、機械を用いたクリーニングや、ブラッシング指導、フッ素塗布などを行うことをおすすめします。
3.まとめ
エナメル質形成不全の問題点としては、
・ 見た目が良くない(変色・形状)
・ 知覚過敏を生じやすい
・ むし歯になりやすい
・ 咬み合わせ、歯並びの乱れにつながる
ことが挙げられる。
家庭でできる対処としては、お口の中を観察する習慣をつけること、毎日のブラッシングをていねいに行うことである。
歯科医院における対処としては、
・ むし歯の予防処置
・ エナメル質が形成されなかった部位を補う処置
・ 定期健診を行い、その時期に必要となる処置を行い、お口の中の健康を保っていくこと
である。
エナメル質形成不全は、10〜20%の割合でおこると言われています。つまり、5〜10人に1人はエナメル質形成不全が認められるということですね。
形成不全の程度は、全顎的な治療が必要になるものから、そのまま様子をみていくものまで様々です。
学校健診などでエナメル質形成不全を指摘された、ご家庭で「あれ?」と思う歯を見つけた場合は、歯科医院を受診するようにしましょう。
そして、何らかの処置が必要なのか、このまま注意深く経過観察をしていくのかなど、今後について方針を立てていくことをおすすめします。
お口の中に、気になることがございましたら、ご相談ください。
笠貫歯科クリニックでは、皆様のお口の中の健康を守っていくことができるよう、お手伝いさせていただきます。
エナメル質形成不全
2024年6月29日
学校の歯科健診や、定期健診などで「エナメル質形成不全歯があります」と言われたら・・・不安になってしまいますね。
「乳歯がエナメル質形成不全だと、永久歯もエナメル質形成不全になるの?」
「私のせいで、子どもの歯が形成不全になってしまったのかな・・・」
そんな不安な声も聞こえてきます。
歯の形成不全は、けっして珍しいものではありません。
そして、お母さんが責められるものでもありません。
大切なのは、形成不全の原因および程度ごとに、しっかりとした対処が必要だということです。
ここでは、エナメル質形成不全について、2回に分けてお話していきます。
今回は、エナメル質形成不全とはどのようなものなのか、そして、その見分け方について、お話していきましょう。
目次
1.エナメル質形成不全とは?
2.エナメル質形成不全の原因
2-1.遺伝性のエナメル質形成不全
2-2.全身的な原因によるエナメル質形成不全(非遺伝性)
2-3.局所的な原因によるエナメル質形成不全(非遺伝性)
2-4.原因不明のもの:MIH(molar incisor hypomineralization)
3. エナメル質形成不全の見分け方
4. まとめ
1. エナメル質形成不全とは?
歯の表面は、エナメル質という、人体で最も硬い組織によって覆われています。
エナメル質は、硬い食べ物を咬むことによる歯へのダメージを防御したり、熱いもの・冷たいものといった刺激が、歯の内部に伝わるのを防いだりする働きがあります。
そんなエナメル質がうまく作られないことを「エナメル質形成不全」といいます。
エナメル質形成不全には、エナメル質の量の障害による「エナメル質減形成」と、エナメル質の質の障害による「石灰化不全」の2種類があります。
この2つを確定診断として見分けることは難しく、その対処法も同じなので「エナメル質形成不全」という1つのくくりとして考えて良いでしょう。
2. エナメル質形成不全の原因
エナメル質形成不全の原因は、遺伝性のものと、遺伝性でないもの(非遺伝性のもの)、そして、原因不明のものに分けられます。それぞれをみていきましょう。
2-1. 遺伝性のエナメル質形成不全
遺伝性のエナメル質形成不全は、血族内で遺伝していきます。乳歯・永久歯全ての歯に形成障害が認められ、その症状も様々であることから、乳歯の萌出時期から小児歯科にて長期的な計画を立てて、専門的な歯科治療を継続して行うことが必要になってきます。
2-2. 全身的な原因によるエナメル質形成不全(非遺伝性)
全身的な原因とは、歯が形成される時期に全身に何らかの問題が生じ、それによって歯の形成も影響を受けることをいいます。歯が顎骨の中で形成され始めるのは、赤ちゃんが生まれてくるずっと前の、お母さんのお腹で成長している時期になります。歯が形成される時期は左右ほぼ同じなので、全身的な原因による形成不全は、左右対称に認められることが特徴です。
全身的な原因としては、以下のようなものが挙げられます。
・ 母体の栄養障害や代謝障害、妊娠初期の感染症や、特定薬物の長期継続投与
・ 幼少期の発熱性疾患
・ 栄養障害(カルシウム、リン、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD欠乏など)
・ 内分泌異常
・ 風疹などの感染症
・ 早産による代謝障害、低酸素症、新生児重症黄疸、栄養障害など
お母さんの中には、乳歯に形成不全が見つかると自分のせいだと感じてしまう方、思い悩んでしまう方が少なくありません。
しかし、原因がどこにあるのかは、はっきりしないことのほうが多いのです。それよりも、全身的な原因である場合は、エナメル質形成不全が左右対称に認められる可能性が高いということのほうが重要です。
そのため、
・ 形成不全が明らかになった歯の反対側の歯に、異常がないかを確認すること
・ 今は何もなくても、歯が欠けたり、虫歯になりやすかったりといった形成不全の兆候が、今後出てくる可能性などを予測すること
・ 同じ時期に形成された歯を、注意深く経過観察すること
などが、大切になってくるのです。
2-3. 局所的な原因によるエナメル質形成不全(非遺伝性)
局所的原因によるエナメル質形成不全の場合は、その原因が生まれてから生じることが多いために、永久歯に認められることがほとんどです。
1~2歯に限局することが多く、左右対称には認められないのが特徴です。
原因としては、以下のようなことが挙げられます。
・ 乳歯への外傷
・ 乳歯のむし歯の進行による、歯根周囲の炎症
・ 慢性的な顎骨内での炎症
乳歯に大きなむし歯があった場合は、その下から生えてくる永久歯に何らかの影響を与えることがあります。
「乳歯だから、むし歯になっても平気」
ではなく、しっかりとしたケアを行っていくことが大切ですね。
2-4. 原因不明のもの : MIH(molar incisor hypomineralization)
エナメル質形成不全には、原因不明のものがあります。MIHと呼ばれるエナメル質形成不全は、2001年に初めて発表されました。
そして、原因は、未だに解明されていません。
MIHの特徴としては、エナメル質形成不全が第一大臼歯(前から6番目の奥歯。6歳臼歯とも呼ばれる)と、永久歯の前歯に現れ、その重症度は左右非対称です。
具体的な症状としては、変色や歯質欠損、知覚過敏などが挙げられます。このMIH、歯が生えた直後は「変色がある程度かな・・・」と、思われていたのに、暫くしてから、歯が大きく欠けたりすることがあるので、注意が必要です。MIHが疑われる場合は、定期的な前歯と第一大臼歯のチェックが必須となるのです。
3. エナメル質形成不全の見つけ方
エナメル質形成不全は、学校の歯科健診や、歯科医院での口腔内チェックの際に発見されることが多いでしょう。では、ご家庭で気を付けることとしては、どのようなポイントがあるのか、みていきましょう。
・ 歯の一部分に変色がみられ、表面がでこぼこしている
エナメル質形成不全では、生えてすぐの段階から歯の一部分に白色・黄色・褐色の部分が認められることがあります。また、歯の表面がザラザラしている、凹凸があることが多くあります。
そのため、着色汚れがつきやすく、その結果として変色して見えることもあります。むし歯の初期症状でもホワイトスポットと呼ばれる白色の変化があり、形成不全とむし歯の初期症状を区別するのは困難です。
しかし、形成不全であっても、むし歯の初期症状であっても、そこに汚れがたまることによってむし歯へと発展していくことに変わりありません。変色があるところ、表面がザラザラしているところは、日頃からしっかりと歯ブラシを当てて、磨くようにしましょう。
そして、一度歯科で診てもらうことをおすすめします。
・ 歯の形が複雑
エナメル質形成不全では、咬み合わせの面にクレーターのようなくぼみができ、その最深部は黄色味がかったように見えることがあります。これは、エナメル質がうまく作られなかったために、エナメル質の層表面に穴が開いている、もしくは欠けてしまって、内部の象牙質の色が透けて見えている状態です。歯が生えた時からある場合と、萌出後しばらくしてから表面が欠けてしまう場合があるので、むし歯との区別がつきにくいかと思います。
エナメル質内に限局した欠損ならばよいのですが、象牙質が露出してしまっている場合は、冷温刺激によって痛みを感じやすくなります。
また、くぼみが深いと、清掃しにくいことからむし歯の発生リスクが高くなります。
いったんむし歯になってしまうと、進行が非常に速いため、出来るだけ早めに歯科医院にて診てもらい、必要があればむし歯の予防処置をすることをおすすめします。
まとめ
・ エナメル質形成不全とは、歯の表面を覆っているエナメル質がうまく作られなかったことによるものである
・ 遺伝性のエナメル質形成不全は、早い時期に専門機関にて長期的な治療計画を立てる必要がある
・ 非遺伝性で全身的な原因によるエナメル質形成不全は、左右対称に認められることが多い
・ 非遺伝性で局所的な原因によるエナメル質形成不全は、乳歯の深いむし歯や外傷によって、その下の永久歯に影響が出る場合が多い
・ 原因不明のものは、永久歯の前歯、第一大臼歯に認められることが多い
・ 家庭では、歯の変色や、形の複雑さ、穴が空いているように見える歯がないか、などを観察すると良い
・ 疑わしい歯を見つけた場合は、歯科医院を受診することを勧める。
乳歯にエナメル質形成不全が認められたからといって、永久歯にもエナメル質形成不全があるとは限りません。しかし、エナメル質形成不全が1本あると、他の部位にも形成不全歯がある可能性はありますので、注意が必要ですね。
また、エナメル質形成不全は、適切な処置を行っていけば、怖い疾患ではありません。
次回は、
エナメル質形成不全の何がいけないのか
エナメル質形成不全があった場合、具体的にどうすれば良いのか
について、お話していきましょう。
お子さんの歯で気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。