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マスク生活で増える口腔トラブルと予防法|歯科医が教える口呼吸・口臭・歯周病対策

2025年9月14日

はじめに

新型コロナウイルスの流行により、私たちの生活に定着したマスク着用。感染予防効果がある一方で、長期間のマスク生活が口腔内環境に与える影響が歯科医療現場で注目されています。

「口呼吸の増加」「唾液分泌の減少」「口臭の増加」など、マスク生活による口腔内の変化を実感している方も多いのではないでしょうか。

実際、あるアンケート調査では、コロナ禍以降に「口臭が気になるようになった」と回答した人が全体の54%にのぼったという結果も報告されており、マスク生活が口腔環境に与える影響の大きさが浮き彫りになっています。

今回は、マスク生活が口腔内に与える具体的な影響と、日常生活で実践できる効果的な対策方法について詳しくご紹介します。

目次

  • ◯マスク着用が口腔内に与える主な影響
    •  ◆口呼吸の増加による口腔内乾燥
    •  ◆唾液の自浄作用の低下
    •  ◆マスク内環境による細菌増殖
  • ◯コロナ禍で増加している口腔トラブル
    •  ◆歯周病リスクの上昇
    •  ◆口臭トラブルの増加
    •  ◆虫歯発生率の変化
  • ◯日常生活でできる口腔ケア対策
    •  ◆正しいマスク使用法
    •  ◆口腔機能を維持するストレッチ
    •  ◆唾液分泌を促進する方法
    •  ◆効果的なセルフケア方法
  • ◯歯科医院での専門的なケアの重要性
    •  ◆定期検診の新しい意味
    •  ◆専門的クリーニング(PMTC)の効果
  • ◯まとめ

マスク着用が口腔内に与える主な影響

口呼吸の増加による口腔内乾燥

マスクをつけると呼吸がしづらく、より多くの空気を吸おうと鼻呼吸するのではなく口呼吸するようになることが多いことが歯科医師により報告されています。小さな子どもの心肺機能にとっては、平常時でもマスクによる呼吸時の抵抗は結構大きいもの。鼻呼吸では息苦しく、自然と口呼吸に頼ってしまうという現象も確認されています。

本来、鼻呼吸では吸い込んだ空気がフィルターされ、加湿・加温されて肺へ送られますが、口呼吸では乾燥した空気が直接口腔内を通過するため、口の中が乾燥しやすくなります。

口呼吸による口腔内への具体的な影響として、以下のような問題が生じます。

  • 唾液の作用が弱くなったり唾液の分泌量が減少したりする
  • 虫歯や歯周病などの原因のプラークが付きやすくなる
  • 菌が増殖しやすい環境になってしまう
  • 舌苔(ぜったい。舌に付着する白いコケ状のもの)がつきやすくなる

特に、マスクを長時間着用する職業の方や、デスクワークが中心の方は、知らず知らずのうちに口呼吸が習慣化している可能性が高く、より注意が必要です。

唾液の自浄作用の低下

唾液は口腔内の健康を維持するための重要な役割を担っています。健康な成人では1日に約1〜1.5リットルの唾液が分泌され、以下のような多彩な機能を果たしています

  • 抗菌作用:唾液に含まれるリゾチームや抗体が細菌の増殖を抑制し、虫歯や歯周病など口のトラブルだけでなく、口からの細菌感染を防ぐ
  • 自浄作用:食物残渣や細菌を洗い流す
  • 再石灰化作用:初期虫歯を修復
  • 消化補助:よく噛み、唾液をたくさん出すことで、飲み込みやすくしたり消化しやすくしたりする
  • pH調整:食事をした後は口の中が酸性に近づくが、唾液がこれを中和してお口の健康を保つ
  • 保護作用:唾液は口の粘膜を保護し、唾液が少なくなると口の中が傷つきやすくなる

マスク着用による口呼吸の増加は、この大切な唾液の分泌を減少させてしまいます。唾液が減ってしまうと、口腔内の自然な防御システムが低下し、お口の中で細菌が繁殖しやすくなることで様々なトラブルの原因となります。

マスク内環境による細菌増殖

マスク着用状態では、体温と息の湿気により、口腔内の湿度が高まり、ある種の密閉空間が生まれます。この環境は、残念ながら細菌にとって非常に繁殖しやすい条件となってしまいます。

通常であれば、唾液の抗菌作用や口の中の自然な換気により細菌の繁殖は抑制されますが、マスク着用時はこのバランスが崩れやすくなります。さらに、マスク内で呼気が循環することで、口の中の細菌がマスク内に付着し、それが再び口の中に戻るという悪循環が生じることもあります。

特に長時間のマスク着用や、マスクを頻繁に交換しない場合は、口腔内の細菌バランスが崩れやすくなる傾向があります。使い捨てマスクを長時間使用したり、布マスクを適切に洗濯せずに再利用したりすると、この問題はより深刻になり、マスク自体が細菌の温床となってしまう危険性もあります。

コロナ禍で増加している口腔トラブル

歯周病リスクの上昇

歯科医院での臨床現場では、コロナ禍以降、歯周病の悪化や新規発症例が増加傾向にあることが報告されています。

歯周病は初期段階では歯ぐきの腫れや出血程度ですが、進行すると歯を支える骨が溶けて、最終的には歯が抜け落ちてしまう疾患です。

歯周病の症状チェックポイントとして、以下の項目に注意が必要です:

  • 歯磨き時の歯ぐきからの出血
  • 歯ぐきの赤い腫れ
  • 口臭の増加
  • 歯のグラつき
  • 歯と歯の間への食べ物の詰まりやすさ
  • 朝起きた時の口の中の不快感の増加

歯周病は進行すると歯を失う原因となるだけでなく、心疾患や糖尿病などの全身疾患とも関連があることが知られています。マスク生活をきっかけに歯周病が悪化することのないよう、早めの対策が重要です。

口臭トラブルの増加

マスク生活が定着して以降、「口臭が気になるようになった」という相談が歯科医院で増えています。これは、マスク内で呼気が滞留することで、自分の口臭を自覚しやすくなったことが主な原因です。

これまでは他人と適度な距離を保っていたため気づかなかった口臭も、マスク内という密閉空間では自分で感じやすくなります。また、マスクをしているという安心感から、口腔ケアへの意識が薄れがちになることも口臭悪化の一因となっています。

口臭の主な原因として、以下が挙げられます

  • 口腔内細菌の増殖による揮発性硫黄化合物の産生
  • 舌苔(舌の白い汚れ)の増加
  • 歯周病の進行
  • ドライマウスによる自浄作用の低下

口臭の原因となる揮発性硫黄化合物は、細菌が食べ物の残りかすやタンパク質を分解する際に発生します。ドライマウスで唾液による自浄作用が低下すると、これらの細菌活動が活発化し、口臭が強くなってしまうのです。

虫歯発生率の変化

マスク生活と在宅時間の増加により、一部の歯科医院では虫歯の新規発生や悪化のケースが報告されています。主な要因として以下が考えられます:

  • 唾液減少による再石灰化作用の低下
  • 在宅時間増加による間食の増加
  • 歯科検診の減少

唾液の減少は虫歯のリスクも高めます。唾液には口の中のpHを中性に戻す緩衝作用があり、虫歯菌が作り出す酸から歯を守る働きがあります。しかし、ドライマウスの状態では、この保護機能が十分に働かず、虫歯菌の活動が活発化してしまいます。

特に注意すべきは「根面カリエス」(歯の根元の虫歯)で、エナメル質で覆われていない歯の根の部分は通常の虫歯よりも進行が早く、マスク生活による唾液減少でリスクが高まります。また、マスクをしているからと油断して歯磨きを怠ったり、間食の回数が増えたりすると、虫歯のリスクは一層高まってしまいます。

日常生活でできる口腔ケア対策

正しいマスク使用法

マスク着用時でも口腔内環境への影響を最小限に抑える工夫があります。最も基本的で重要な対策は、正しい鼻呼吸を意識することです。

<鼻呼吸を意識する方法>

  • マスク着用時は意識的に口を閉じて呼吸する
  • 呼吸が苦しい時は人のいない場所で一時的にマスクを外す
  • 就寝前に鼻呼吸の練習をする
  • 鼻炎で鼻呼吸が困難な場合は耳鼻科への相談も検討
  • 舌を上顎につけるような意識を持つと、自然に鼻呼吸に切り替わりやすくなる

<マスク選びのポイント>

  • 通気性が良く呼吸しやすいものを選ぶ
  • 顔の形に合ったサイズを使用
  • 長時間使用時は適宜交換(使い捨てマスクは一日一回、できれば半日で交換)
  • マスク内側が湿ったら交換
  • 布マスクを使用する場合は、毎日洗濯し、しっかりと乾燥させてから使用

マスクの内側にガーゼを当てて、定期的に交換するという方法も効果的です。また、可能であれば、一日の中でマスクを外せるタイミングで、深呼吸をしたり、軽く口をゆすいだりすることも、口腔環境のリフレッシュに役立ちます。

口腔機能を維持するストレッチ

マスク生活による口腔機能の低下を防ぐために、日常的な口腔ストレッチが効果的です。

「あいうべ体操」のやり方

  1. 「あー」:口を大きく開ける(3秒間)
  2. 「いー」:口を横に大きく引く(3秒間)
  3. 「うー」:口を強く前に突き出す(3秒間)
  4. 「べー」:舌を大きく出す(3秒間)

1日30セット程度行うことで、口周りの筋肉を鍛え、唾液の分泌促進が期待できます。

舌回し運動

舌回しならマスクをつけたままでもできますから、外出が多い人などはより習慣づけしやすいかもしれません。口呼吸の改善に役立つだけでなく、唾液が出て口の中の乾燥を防ぐことができますし、マスク生活であまり使わなくなってしまった表情筋も鍛えられます。

<舌回しのやり方>

  • 口を閉じ、唇と歯ぐきの間に舌を入れる
  • 舌を歯ぐきに沿わせながらゆっくりと右回りに10回転
  • 同様に左回りに10回転
  • 右回し、左回しをそれぞれ10回でワンセット。1日1セットから始めて2セット、3セットと増やしていく

唾液分泌を促進する方法

唾液の分泌を促進するための具体的な方法をご紹介します。

<唾液腺マッサージ>

  • 耳下腺マッサージ:耳の前から頬にかけて円を描くようにマッサージ(10回)
  • 顎下腺マッサージ:顎の下を軽くつまみ、前から後ろにマッサージ(10回)
  • 舌下腺マッサージ:舌を上顎に押し付け、顎の下を軽く押す(10回)

<その他の分泌促進方法>

  • よく噛んで食べる(一口30回噛む)
  • キシリトール入りガムを噛む
  • こまめな水分摂取(基本的には水やお茶を選ぶ。特に緑茶には抗菌作用があり、口腔内の細菌繁殖を抑える効果が期待できる)
  • 食事前のマッサージ実施

ドライマウス対策として、こまめな水分補給は欠かせませんが、糖分を含む飲み物は虫歯のリスクを高めるため注意が必要です。一日を通じて少しずつ、こまめに水分を摂取することで、口の中の乾燥を防ぎ、唾液の分泌を促進することができます。

効果的なセルフケア方法

マスク生活において特に重要なセルフケアのポイントをご紹介します。

<ブラッシングの改善>

  • 1箇所につき20回程度の小刻みな動き
  • 歯と歯ぐきの境目を意識した清掃
  • 奥歯の噛み合わせ面の丁寧な清掃
  • 磨き残しの多い部位への特別な注意

<補助的清掃用具の活用>

  • デンタルフロスや歯間ブラシの毎日使用
  • 舌ブラシによる舌苔の除去
  • 歯科医院での使用方法指導の受講

正しい歯磨きのタイミングも重要で、食後30分程度経ってから行うことで、唾液による口腔内のpH調整が完了した後に清掃を行うことができます。また、就寝前の歯磨きは特に重要で、睡眠中は唾液の分泌が減少するため、細菌の繁殖を防ぐために徹底的な清掃が必要です。

歯科医院での専門的なケアの重要性

定期検診の新しい意味

マスク生活による口腔環境の変化に対応するため、「痛くなったら行く」という従来の受診パターンから、「予防のために定期的に通う」という能動的な関わり方への転換が重要です。

予防歯科先進国のスウェーデンでは、定期検診が生活習慣として定着しており、70歳時点での平均残存歯数が25本前後(日本人は約15本)と大きな差があります。この差は、予防に対する意識と定期的な専門的ケアの違いから生まれています。

マスク生活により、従来よりも口腔環境の変化が起こりやすくなっている現在、定期検診の重要性はさらに高まっています。早期発見・早期治療により、深刻な問題に発展する前に対処することが可能になります。

専門的クリーニング(PMTC)の効果

Professional Mechanical Tooth Cleaning(PMTC)は、歯科医師や歯科衛生士が専門機器を使用して行う徹底的な歯のクリーニングです。

PMTCの主な効果として、以下が挙げられます

  • セルフケアでは除去できない歯石や着色の除去
  • 細菌バイオフィルムの破壊と除去
  • 虫歯・歯周病予防効果の向上
  • 口臭の改善
  • 歯の表面がつるつるになり、新しい汚れや色がつきにくくなる

マスク生活により増加した細菌の除去や、ドライマウスにより蓄積しやすくなった汚れの除去に、PMTCは特に効果的です。定期的にPMTCを受けることで、マスク生活による口腔環境の悪化を予防し、健康な状態を維持することができます。

まとめ

マスク生活が私たちの口腔内環境に与える影響は多岐にわたりますが、適切な対策により十分に予防可能です。口呼吸から鼻呼吸への意識的な変更、口腔ストレッチや唾液腺マッサージの実践、丁寧なセルフケアの継続、そして定期的な歯科検診の受診が重要なポイントです。

感染予防のために欠かせないマスクですが、一方で口腔の健康にとっては思わぬ落とし穴があることを理解し、今回ご紹介した対策を日常生活に取り入れることで、マスクと上手に付き合いながら、健康的な口腔環境を維持していきましょう。気になる症状がある場合は、早めに歯科医院での相談をおすすめします。

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