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マタニティー歯科の勧め マイナス1歳から始める虫歯予防①

2024年10月25日

「人生100年時代」の土台はお腹の中で作られる

「人生100年時代」と言われるように、日本の平均寿命は延び続けていますが、日常生活に制限のない、自立した生活を送れる期間である「健康寿命」と平均寿命の間には、約10年の開きがあります。

健康上の問題などで、支援や介護を必要とする日常生活に制限のある期間が、約10年もあるということです。

いつまでも元気に過ごすためには「健康寿命」を延ばすことが大切です。

生きていくために欠かせないことは、「呼吸をすること」と「食べること」。
呼吸が楽にできる鼻、きちんと噛めて飲み込める口は、人生の質を左右します。

「マタニティー歯科」という言葉を聞いたことがありますか?

「マタニティー歯科」は、妊婦さんと生まれてくる赤ちゃんを対象にした歯科です。妊娠がわかっている方だけでなく、これから妊娠を望む方や、授乳中の方も対象に含まれます。妊婦さんや赤ちゃんが生まれた方に特有の身体や体調の変化を考慮した検査・歯科処置・予防処置を行います。

「妊娠・出産と歯医者って、何の関係があるの?」と思う方もいると思います。実は、妊娠・出産と歯科は、密接に関係しているのです。

マタニティー歯科は「お母さん」のため

出産した後のお母さんは、「歯がボロボロになってしまう」「お口の状態が悪くなってしまう」という噂を聞いたことがありますか?現在60代~80代の方が「お母さん」だった頃は、「子供を1人産むと歯が1本無くなる」と言われていたそうです。歯科医院でも、「子供を生む度に歯が悪くなって、もうボロボロ」「子供に栄養を取られたから、骨も歯も弱くなった」と仰る高齢の女性は少なからずいらっしゃいます。

調査内容・結果

2014年4月、東京医科歯科大学の研究者グループにより、以下のような疫学調査の結果が発表されました。

〝出産回数が増えると将来、歯を失いやすくなる――。東京医科歯科大学の植野正之准教授らのグループは16日、こんな疫学調査の結果を発表した。妊娠や出産の過程で虫歯になりやすくなるうえ、歯科治療を受ける機会が減るのが原因と考えられるという。妊娠中も虫歯予防や治療に積極的に取り組むことが必要だという。

1990年に秋田県に住んでいた40~59歳の男女に歯科に関するアンケート調査をし、2005年に歯科検診を受けた約1200人(男性562人、女性649人)の結果を解析した。女性は出産回数を「0回」から「4回以上」まで5グループに分けて、親知らずを除く28本の永久歯のうち残っている数を比べた。

その結果、4回以上出産しているグループの残っている歯は約15本。0回の約18本や1回の約19本に比べて約3本少なかった。回数が多くなると残っている歯の数が減っていた。かみ合わせに大事な奥歯の上下のペアの数を見ても同様の傾向を示した。
男性では子供の数別に比べたが、残っている歯の数と関連はなかった。

妊娠・出産ではホルモンや口の中の細菌のバランスの変化で免疫力が低下し、虫歯や歯茎などの歯周組織が壊れやすくなる。このため「妊娠が繰り返されると歯を失うリスクが上がる」(植野准教授)。

妊娠中の歯科治療が胎児に悪影響を及ぼすという説のため治療を避ける妊婦もいるが、通常の虫歯治療ならば問題はなく、科学的な根拠はないという。〟

(日本経済新聞 2014年4月16日号 https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1600I_W4A410C1CR0000/

この調査から考えられることは?

結論は「出産回数が増えると、歯を失うリスクが高まる」。
しかし、お腹の中の赤ちゃんに骨や歯のカルシウムが取られて歯を失ったわけではありません。このような結果になったのは、妊娠中や出産後のお母さんの口のケアが不十分だったからです。

妊娠・出産をすると、心と身体はいつもとは違う状態になります。口も身体の一部ですから、口の中もいつもとは違う状態になります。以下のような理由から、虫歯や歯周病が悪化しやすいと考えられます。

  • ①母体から見れば「異物」である赤ちゃんを母体の免疫機能から守るため、妊娠中は体全体の免疫機能が低下します。虫歯も歯周病も感染症ですから、悪化しやすい状態になります。
  • ②妊娠中は、唾液の分泌量が低下すると共に、唾液の質が変化してネバネバした状態になります。また、いつもは中性の唾液がやや酸性に傾き、虫歯菌が産生する酸を中和する働きが弱まるため、歯が溶かされやすい状態になります。
  • ③女性ホルモンの分泌量が変化して、女性ホルモンを栄養源とする歯周病菌が増える傾向があります。女性ホルモンの影響で、普段よりも歯肉が腫れやすくなり、妊娠性歯肉炎を発症しやすくなります。
  • ④悪阻により歯磨きが難しくなることがあります。また、悪阻による嘔吐で歯が溶かされやすい状態になります。
  • ⑤味覚が変化して酸っぱい物を好むようになり、口の中が酸性に傾き、歯が溶かされやすくなります。
  • ⑥悪阻で小分けにして食べるため、飲食回数が増えて、口の中が酸性になる時間が長くなり、歯が溶かされやすくなります。
  • ⑦悪阻や体調の変化、授乳により歯科の受診が難しく、処置が中断したり、処置が必要な歯が放置される傾向があります。
  • ⑧妊娠・出産で生活パターンが変わり、子供優先となるため、自分のことが後回しになりやすく、歯磨きや通院が疎かになりがちです。

マタニティー歯科は「赤ちゃん」のため

子供の口や歯を健康に育てる口腔育成は、お母さんのお腹の中にいる時=マイナス1歳からスタートしています。

唇や上顎(口蓋)は、妊娠8週~10週頃にでき上がります。上顎の形は、健全な呼吸機能に影響します。妊娠7週~10週頃には、子供の歯(乳歯)の芽となる歯胚(しはい)が形成されます。また、妊娠3か月半頃になると、大人の歯(永久歯)の歯胚の形成も始まります。妊娠4~5ヶ月頃には歯胚が硬い組織になる石灰化が始まっています。石灰化に必要なカルシウムやリンは、お母さんの血液から供給されます。歯胚は、歯を支える骨(歯槽骨)の中で時間をかけて発育し、やがて歯として口の中に生えてきます。

妊娠中のお母さんの健康状態や栄養状態が、赤ちゃんの口や歯に大きく影響するのです。

また、生まれたばかりの赤ちゃんの口の中は無菌ですが、身近で接している人から徐々に細菌が伝搬して、その人固有の細菌の集団(細菌叢)が形成されます。

細菌のDNAを解析した研究によると、細菌叢の50%が、いちばん接する時間が長い母親由来なのだそうです。細菌叢の細菌は、善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3種類に分類されますが、お母さんの口の中の悪玉菌を減らして、赤ちゃんに移さないようにすることが、生涯に渡って虫歯や歯周病になりにくいお口作りのためには大切です。

歯周病菌が血管内に入り込むと、歯周病菌が作り出す炎症物質が胎盤を刺激して、子宮に陣痛に似た収縮を引き起こし、早産・低体重児出産などのリスクが高まることも明らかになっています。
お腹の赤ちゃんのためにも、お母さんのお口の中を健康に保つようにしましょう。

まとめ

・マタニティー歯科は、妊婦さんと生まれてくる赤ちゃんを対象にした歯科

・妊娠中や出産後は、虫歯や歯周病のリスクが高くなる

・生まれてくる赤ちゃんのために、お母さんの口の中を健康に保つことが大切

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