楽器演奏者(管楽器・弦楽器)の歯や顎への負担とケア方法 ~その2:管楽器・弦楽器演奏者の歯や顎へのケア方法~
2025年11月7日
はじめに
前回は、管楽器・弦楽器を演奏する際の、歯や顎にかかる負担についてお話していきました。
今回は、そのような負担に対する対処方法として、ご自身でできる日常ケアと、歯科医院で行う治療と予防についてお話していきましょう。
目次
1. 管楽器・弦楽器の演奏中にかかる歯や顎への負担
1-1. 顎位の変位
1-2. 身体のバランスの左右不均衡
1-3. くいしばり
2. 演奏者が出来る日常ケア
2-1. 身体の左右バランスの左右不均衡に対する日常ケア
2-2. 顎位の変位に対する日常ケア
2-3. くいしばりに対する日常ケア
3. 歯科医院で行う治療・予防
3-1. 唇と歯がぶつかって痛い、出血する
3-2. 顎が痛い、口が開かない(顎関節症)
3-3. 定期的なメンテナンス
4. まとめ
1. 管楽器・弦楽器の演奏中にかかる歯や顎への負担
前回お話した管楽器・弦楽器演奏による歯や顎への負担を、部位ごとにまとめてみていきましょう。
1-1. 顎位の変位
管楽器を吹く時の、演奏者の口の形、及びそれに関わる口周囲の筋肉の使い方のことを「アンブシュア」といいます。
管楽器のアンブシュアは、リラックスした状態での上下顎の位置関係よりも、下顎が前に出た状態になってしまいがちです。
それによって、顎関節およびその周囲組織に負担がかかりやすくなります。
それとは逆に、弦楽器では肩と顎で楽器を支えようとして顎を肩に寄せるために、下顎を後ろに引いた状態になりやすい傾向にあります。
また、初心者のうちは、弦を押さえる左手の指先を凝視しがちです。
一生懸命に手元を見ようとすればするほど、下顎を後ろに引いてしまいやすく、顎関節およびその周囲組織への負荷がかかりやすくなります。
1-2. 身体のバランスの左右不均衡
左右どちらかに楽器を構える場合は、身体に加わる力に左右差が生じやすくなります。
その状態で長時間練習を続けることで、筋肉の発達にも左右差があらわれてきます。
その結果、肩凝りなどにより身体の痛みを感じたり、顎関節に負担がかかったり、顎の変形を引き起こす場合もあります。
1-3. くいしばり
管楽器のシングルリード、ダブルリードの場合、楽器を安定させようとしてマウスピースに噛みつくようなアンブシュアになってしまう方もいるようです。
弦楽器では下顎を後方に引いた状態になりやすく、くいしばりが生じやすい顎位になります。
また、楽器演奏は、発表の場であったり、練習の際にも全員で音を合わせなければいけない場面などが多く、緊張やストレスを感じやすいと言われています。
緊張したり、ストレスを感じたりすると、気がつかないうちに(無意識下で)歯をくいしばっていることが多くなります。
くいしばり癖は、顎関節に強い負担を与えます。
そのため、顎関節症へのリスクが非常に高くなります。
それ以外にも、くいしばり癖は、歯が欠けたり割れたりすることや、歯周病が悪化するリスクを高めること、さらには顔面のゆがみや頭痛・肩凝りといった症状を引き起こすこともあります。
2. 演奏者が出来る日常ケア
管楽器や弦楽器に限ったことではありませんが、何かに夢中になるということは、どこかに負担がかかることも多いようですね。
ここでは、管楽器・弦楽器の演奏者の皆さんが、手軽に行える日常のケアを紹介していきます。
他の楽器で応用できることも多いので、参考にしていただければ嬉しいです。
2-1. 身体のバランスの左右不均衡に対する日常ケア
まずは、正しい姿勢で演奏できるよう、演奏中の姿勢を見直しましょう。
背筋を伸ばして、全体的なバランスの良い演奏姿勢を見つけることが、身体に負担をかけないためにも大切です。
不必要なところに力が入らず、リラックスした状態で演奏することで、良い音色を響かせることにも繋がります。
正しい姿勢を保持することができるように、腹筋や背筋などの基本的な体力をつけることも重要ですね。
また、肩や首など、どうしても負荷がかかる部位に関しては、演奏前と演奏後に入念なストレッチを行うなど、メンテナンスを行うようにしましょう。
疲労や痛みを感じた場合は、しっかりと休息をとることも大切です。
2-2. 顎位の変位に対する日常ケア
管楽器のアンブシュアは人によって様々です。
演奏中に下顎の顎位が前方に変位するのは仕方ないということもあるでしょう。
そのような場合は、楽器を持っていない時間は、正しい顎位を保持するよう心掛けましょう。
正しい顎位とは、顎関節や周囲筋肉・舌などに余計な力が加わっておらず、なおかつ適度な筋肉の緊張がある状態をいいます。
具体的には、次のような状態です。
- 上下の唇は軽く閉じられている
- 上下の歯と歯の間に2~3㎜のすき間がある
- 舌の尖端が、上の前歯のやや後ろの歯肉に触れており、舌全体が上顎(口蓋)に触れている
この位置が、顎関節や周囲の筋肉がリラックスできる状態になりますので、ぜひ覚えておきましょう。
バイオリン・ビオラなどの弦楽器では、顎と肩だけで楽器を支えようとせずに、左手を楽器に添えて支えるようにしましょう。
また、顎を後方に引きすぎたり、左肩が上がってしまわないように、肩当てなどを使用して、楽器の高さの調節を行うことも効果的です。
2-3. くいしばりに対する日常ケア
くいしばり癖は、無意識に行っていることが多いのが特徴です。
また、ストレスが原因となることも多くあります。
くいしばり癖から顎関節症になる方も少なくありません。
楽器を強く咬み込むようなアンブシュアは、長く楽器演奏を続けていくためにもお勧めできません。
弦楽器の場合も、顎を引きすぎることがなく、力が入りすぎない演奏姿勢を探しましょう。
ストレスが原因のくいしばり癖に関しては、改善が難しいところだとは思いますが、出来るだけリラックスした状態で演奏するよう、心掛けましょう。
先ほどお話したような、正しい顎位を意識することも効果的です。
上下の歯が当たらず、少しすき間を開けるように意識するだけでも、くいしばりに対する改善は見込めます。
「自分がくいしばっているのか、よくわからない」
そんな時は、歯科医院で相談してみましょう。
お口の中の診査を行うことで、日常的に食いしばり癖があるか、またその場合は、どこに負担が生じているかなどがわかります。
お気軽にご相談ください。
3. 歯科医院で行う治療・ケア
ここからは、歯科医院で行うことのできる治療やケアについて、みていきましょう。
3-1. 唇と歯がぶつかって痛い・出血する
シングルリード、ダブルリードの楽器のアンブシュアは、歯の上に唇を当てるために、唇に痛みを感じる場合があります。
歯の形の凹凸が原因の場合は、鋭利に尖っている部分は軽く削って丸める、欠けて凹みのようになっている場合は、コンポジットレジンという歯と同系色の歯科材料で欠けている部分を盛り足すことで、凹凸を改善することができます。
歯並びが原因の場合や、強く咬み過ぎる場合は、まずは正しいアンブシュアがとれているか確認します。
それでも痛みが続くようであれば、演奏中に装着するための、取り外し式の部分的なマウスピースを製作するという方法もあります。
どのような大きさ・形状にするかなどは、楽器の種類や口腔内の状態によっても異なりますので、ご相談ください。
歯並びが原因の場合は、歯列矯正治療を行うという方法もあります。
矯正治療の場合は、歯の表面、または裏側に装置を直接装着するワイヤ―矯正(取り外し不可)と、取り外しのできるマウスピース矯正があります。
管楽器の場合は、唇側に矯正装置を装着することにより、今まで通りのアンブシュアが取れなくなる可能性があります。
しかし、アンブシュアを工夫したり、取り外し式のマウスピース矯正や、舌側に装置を装着する舌側矯正を検討するなど、様々な方法があります。
また、「楽器演奏中は装置は外しておきたいから、マウスピース矯正!」と、安易に決めつけないことも大切です。
ワイヤー矯正に比べると、マウスピース矯正は、どのような症例にも対応できるというものではありません。
さらに、マウスピース矯正の場合は、矯正用マウスピースを1日20~22時間装着しておくことが求められます。
食事中・歯磨き中はどうしても外す必要があるので、それ以外で装置を外しておいても良い時間というのは案外短いのです。
「練習があるから」と、1日の中での装着時間が短くなってしまうと、計画通りに矯正治療が進まなくなります。
矯正用マウスピースが入らなくなってしまい、治療のやり直しが必要になるといったトラブルにも繋がりかねません。
管楽器演奏者だからといって、歯列矯正が出来ないわけではありません。
歯列矯正は、治療前のお口の中の歯並びの状態や、どこまで治したいかという目標、日常生活の過ごし方と、その中に矯正治療をどのように組み込んでいくかなど、
自分自身のライフスタイルに合った治療計画を立てていく過程がとても大切です。
歯列矯正治療を検討される場合は、管楽器を演奏していることも必ず伝えた上で、矯正専門医としっかり話し合って治療計画を立てることが重要です。
3-2. 顎が痛い、口が開かない(顎関節症)
顎関節症の症状としては、顎を動かすと音がする、動かしにくい、動かすと痛みを感じる、口が開きにくい、痛みで食べ物が咬めない、などが挙げられます。
顎関節症の場合は、出来るだけ安静を心掛ける・顎関節に負担がかからないようにするといったことが大切です。
例えば、硬い食べ物は控える、大きな食べ物は小さく切ってから口に運ぶ、強く咬まずに、何回かに分けて咬んで食べるようにするなど、注意しましょう。
また、あくびの際などであっても、大口を開けないようにすることや、頬杖をついたり横向きに寝たりといった、顎関節に負担がかかる行為も控えましょう。
くいしばり癖も、顎関節症のリスクを増大させます。
くいしばりがないかを確認することや、日常的に正しい顎位を心掛けることも重要です。
それでも改善が認められない場合、くいしばり用のマウスピースの装着や、顎関節用のマウスピースを用いたスプリント療法などを行っていくことをおすすめします。
3-3. 定期的なメンテナンス
管楽器のアンブシュアは、お口の中の状態によっても左右されます。
例えば、突然前歯が大きく欠けてしまったら?
歯列にすき間が出来ることで、空気の流れに変化が生じ、発音に変化が生じます。
管楽器の演奏ともなると、もっと大きな変化があることが考えられますね。
慌てて治療を行い、被せものの歯を入れたとしたら。
今までの歯と形や傾きが異なってくると、今まで通りの音が出せなくなる可能性もあります。
お口の中に、突然大きな変化が生じることがないよう、定期的に歯科検診を行い、早期治療を心掛けることが大切です。
そうすれば、大掛かりな治療が必要になりそうな局面には、治療前の歯列模型を採取しておき、同じような形状になるよう治療を行うこともできます。
歯が痛い、歯肉が腫れて咬めないなどのお口の中のトラブルが生じることで、いつものアンブシュアが保てないことや、演奏に集中できないといったことが生じることも考えられます。
くいしばり癖がある場合は、歯や歯周組織、顎関節への影響がないかを常に確認する必要があります。
定期的な歯科検診を行うことをお勧めします。
4. まとめ
- ・管楽器の演奏には、下顎が前方に偏位し、顎関節に負担がかかる可能性がある。
- ・弦楽器の演奏には、下顎に過剰な力が入ることや、下顎が後方に偏位し、顎関節に負担がかかる可能性がある。
- ・楽器演奏者には、くいしばり癖が生じやすい。
- ・楽器演奏者が出来る日常のケアとして、日頃から正しい顎位を心がけることや、バランスの良い演奏姿勢をとること、演奏前後のストレッチなどのメンテナンスを行うことが挙げられる。リラックスした状態で演奏を行うことも大切である。
- ・歯科医院で行う治療やケアとしては、お口の中に大きな変化が生じないよう、定期的な検診を行うこと、治療が必要な場合は、早めに処置を行うことが大切である。
- ・唇に前歯が当たって痛い場合などは、歯科医院で歯の形態を整えることや、演奏用マウスピースの製作などの治療を行うことができる。
- ・くいしばり癖がある場合は、歯や歯周組織、顎関節への影響などを考えて、定期的なチェックが必須である。
- ・くいしばりや顎関節症の治療としては、治療用マウスピースを用いる方法などがある。
管楽器・弦楽器に関わらず、一生懸命何かに取り組むことは素晴らしいことです。
しかし、夢中になるあまりに、身体に負担がかかってしまうこともあります。
演奏することへのプレッシャーやストレスもあるでしょう。
しかし、それと同時に、ご自身の好きな音楽を気持ちよく演奏するという音楽特有の癒し効果も、もちろんあるかと思います。
セルフケアとプロフェッショナルケアをうまく取り入れて、様々なものに挑戦していくことが出来ると良いですね。
お口の中の気になること、困りごとなどがございましたら、笠貫歯科クリニックにご相談ください。

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