抜歯シリーズ第3弾~みんなのお悩み、下の親知らず~
2024年3月19日
前回、前々回に引き続き抜歯シリーズとして、難しい抜歯について解説しました。
さて、今回は、抜歯シリーズ第3弾。
若い人を中心に、近年の日本人に多い、下顎の親知らずについてお話していきたいと思います。
第2弾でも書きましたが、親知らずの悩みを抱えている方は非常に多くいます。
特に、下の親知らずは、近年の日本人は顎の大きさが小さくなってきているため、
真っすぐ生えてくることが少なくなってきました。
横から生えてくる親知らずは、様々な悪影響を及ぼします。
しかし、皆さんがイメージするように厄介な処置になることが多いです。
これを読んで、少しでもそんな不安が解消できればいいなと思います。
少し怖いこともお話しますが、ご勘弁ください。。。
目次
① 下顎の親知らずの抜歯事情
◆清掃困難になっている場合
◆痛みや腫れを繰り返している
◆ 手前の歯に悪影響を与えている場合
◆矯正治療上必要な場合
②横から生えた親知らずを放置しておくと?
◆腫れや痛みを繰り返す
◆ 手前の歯をダメにする
◆顎の骨の炎症が生じる
③親知らずを抜く方法は?
◆局所麻酔
◆歯茎の切開
◆歯の頭の周りの骨の削合
◆歯の頭を分割
◆根っこの摘出
◆縫合
④すぐに歯科医院に連絡したほうがいい偶発症
◆血が止まらない
◆抜歯後3時間程度経過しても、顎や舌がしびれている
◆高熱や飲み込んだ時の痛みがある
⑤まとめ
①下顎の親知らずの抜歯事情
第2弾でも解説しましたが、親知らずは約18歳ごろに生えてくる歯です。上下左右に合計4本あり、歯列の最も後方に生えてくる特徴があります。近年、日本人は様々な原因のため、顎の大きさが小さくなってきているとされています。それに伴い、最後に生えてくる親知らずに必要なスペースが足りず、まっすぐ生えてこないという方が多くなっているのが現状です。それでは、すべての親知らずを抜歯しないといけないのでしょうか?いいえ。そんなことはありません。具体的に見てみましょう。
◆清掃困難になっている場合
まずは、自分でのお掃除が難しくなっている時です。親知らずが横から生えていると歯と歯の間が他の部分と異なります。このため、ものが詰まりやすかったり、糸ようじを使ってもなかなか汚れが取れなかったりします。汚れがたまり続けるとどうなるか分かりますよね?このような時には抜いてあげた方が良いかもしれません。
◆痛みや腫れを繰り返している
次に、横から生えている親知らずの周りの歯茎が腫れたり、痛くなったりすることを繰り返している場合です。これは、⑴と関連します。汚れが長時間ついたままだと、炎症反応が生じます。このような不快な現象を起こしている場合、原因除去をするために抜いてあげた方がいい場合があります。
◆手前の歯に悪影響を与えている場合
手前の歯(12歳臼歯)に悪影響を及ぼすことも少なくありません。具体的には、根っこの部分が虫歯になったり、最悪根っこを溶かしたりすることもあります。悪くなった歯の治療をすることはもちろんですが、原因となっている親知らずを取り除いてあげないと同じことを繰り返すことになるかもしれません。
◆矯正治療上必要な場合
矯正治療で歯を動かすために親知らずがあると動かしにくくなります。このため、矯正治療を行う場合、親知らずの抜歯を行うことを必須にしている先生もいらっしゃいます。
この4つの場合に下の親知らずの抜歯が必要になることがあります。すべての親知らずについて抜歯をしなければならないというわけではありません。自分の親知らずが気になる方は是非一度歯医者さんにご相談ください。
②横から生えた親知らずを放置しておくと?
さて、親知らずを抜きたくないと考える方もいらっしゃると思います。もちろんその選択も悪いわけではありません。いろいろと考えてご自身が抜かないという選択をしたのならば、それが患者さんにとってはベストな選択です。したがって、それを否定することはできません。ただし、横に生えている親知らずを放置していると恐ろしいことも起こりえます。ここではどんなことが起こるのかを解説します。
◆腫れや痛みを繰り返す
溜まった汚れからばい菌感染を起こしてしまい、そのたびに痛みや歯茎の腫れを繰り返すことになります。これらの感染が歯の周囲だけにとどまっていればいいのですが、最悪、頬っぺたや、顎の下に膿の塊を作ってしまい、出口を求めて皮膚を突き破ったり、喉の周囲まで溜まってしまい、気道が圧迫され窒息してしまうこともあります。これは大げさに解説しているわけではなく、全国の口腔外科病院では比較的よくみられることです。
◆手前の歯をダメにする
手前の歯(12歳臼歯)が虫歯になったり、根っこが溶けたりする原因になります。こうなると当然治療をしなければなりません。虫歯の治療をすると、詰め物の周りから虫歯が広がりやすくなります。また、神経を取ってしまうと、歯の寿命が短くなってしまいます。根っこが吸収してしまったら、最悪その歯を抜かなければなりません。
◆顎の骨の炎症が生じる
歯は顎の骨の中に埋まっています。細菌感染が歯茎を超えて顎の骨にまで及んだ状態を骨炎(こつえん)または骨髄炎(骨髄炎)といいます。この状態は非常に難治性です。顎の骨を腐らせてしまうこともあります。感染の範囲によっては顎の骨を切り取らないといけない場合もあるので注意が必要です。
このように、たかが親知らずと思っていても、侮るなかれ。親知らずが原因で生じる病気は厄介なものが多く、大掛かりな手術が必要になったり、入院が必要になることも少なくありません。そんなリスクを持っているのが、横から生えてきている親知らずです。
③親知らずを抜く方法は?
それでは具体的に親知らずを抜く方法を解説します。皆さんのイメージする治療通り、親知らずの抜歯は患者さんへのダメージが大きくなる傾向にあります。どんな手順で行われるか見ていきましょう。ここでは、横から生えている親知らずの一般的な抜歯方法を解説します。
◆局所麻酔
まずは、局所麻酔です。歯医者さんによって麻酔方法は異なりますが、歯の周りにのみ麻酔をすることが多いです。そのほかに、伝達麻酔といって顎半分が麻酔される方法をとる先生もいます。どちらも適切な麻酔方法ですので、そこはご安心ください。
◆歯茎の切開
麻酔が効いているのを確認したら、次は歯茎の切開です。歯を完全に見えるようにするために歯茎を切る必要があります。麻酔がしっかりと効いているので痛みは感じません。
◆歯の頭の周りの骨の削合
歯茎を切ってめくりあげると、歯の頭は骨の中に埋まっているのが見て取れます。骨の中に完全に埋まっている状態では当然取れません。ですので、歯の周りの骨を削り、歯を視認できる状態にする必要があります。ここでも、麻酔がしっかり効いているので痛みはほとんどありません。
◆歯の頭を分割
横から生えている親知らずでは、歯を2つ以上のパーツに分けて取り除くのが一般的な方法です。このため、歯を根っこと頭とに分ける必要があります。歯を削る機械を使って分割していきますが、神経の近くを削るので、痛みが出る方もいます。そんなときは遠慮なく、訴えるようにしましょう。きっと麻酔を追加してくれます。
<h3>根っこの摘出</h3>
さて、歯の頭を割って取れたら、残った根っこを取り出すのみ。ここまでくれば、ほぼ終了しているようなものですが、根っこの状態によってはさらにパーツを分ける必要があることもあります。
◆縫合
全てを取り切ったら最後は傷口を縫い合わせておしまいです。
このように、横から生えている親知らずを抜くには一筋縄ではいきません。歯の生え方や歯の大きさ・形は人によって異なるため、厄介な処置になりがちです。少し怖いイメージを持ったかもしれませんが、麻酔がしっかり効いている状態で行えば、痛みを感じることはほとんどありませんのでご安心下さい。
④すぐに歯科医院に連絡したほうがいい偶発症
さて親知らずの抜歯後すぐに歯医者さんに連絡したほうがいい偶発症もあります。ここでは、家に帰った後、どんな時に病院に連絡をいれたり、受診した方がよいかの目安となる症状をご紹介します。
◆血が止まらない
親知らずの抜歯は切開や骨を削ります。これにより、出血が生じます。通常は止血を確認したのち、帰宅になりますが、家に帰っても沸くような出血がある場合にはすぐに連絡をしましょう。
◆抜歯後3時間程度経過しても、顎や舌がしびれている
親知らずの周りには大きな神経が2本通っています。下唇の周りの感覚を伝える神経と舌の感覚を伝える神経です。歯を抜く時にこれらの神経を傷つけてしまうこともあります。通常麻酔薬は2~3時間程度で切れてきますので、それ以上経過しても下唇の周りや舌がしびれている場合にもすぐに連絡しましょう。
◆高熱や飲み込んだ時の痛みがある
抜歯後は炎症反応が生じるものです。しかし、その炎症がより広範囲に生じることもあります。そのような場合、39℃程度の高熱や、飲み込んだ時の痛みが生じることが特徴です。これらの症状があれば、早急に対応しなければなりませんので、すぐに連絡しましょう。
ここでは3つほど紹介しましたが、その他にも注意が必要な偶発症があります。歯を抜く前に歯医者さんで説明をしっかりと受けるようにしましょう。
⑤まとめ
今回は下の親知らずの怖いお話をしました。親知らずの抜歯では大学病院などの専門機関を紹介されることも少なくありません。より安全に抜歯をするためにも必要なことです。自分の親知らずがどうか気になる人は、是非一度ご相談ください。